食堂はカオス・2
吹っ飛んだ不良は、壁に激突。うん、逆側じゃなくてよかったな。そうでなければ、手摺りを越えて一階に真っ逆さまだ。
不良を蹴り飛ばしたのは、俺の両脇にいた凛斗と蘭斗である。テーブルを踏み台にした、それはそれは見事な跳び蹴りだった。
「「トモちゃんになんてことすんのさー!!」」
よっぽど腹が立ったのか、双子はそれは見事な連携プレイで左右から攻撃を仕掛けた。不良もやられっ放しではないが、二対一では分が悪いようで防戦を強いられている。
誰か止めてやれよ、と思っていると、不意に背後から聞き覚えのある声が響いた。
「――凛斗、蘭斗!お前ら、なにやってんだよ!大丈夫か、ケンッ!」
振り向けば、そこには少し怒ったような表情を浮かべた白崎の姿があった。どうやら、“ケン”というのが俺の刺身定食をだめにした不良の名前らしい。
不良の傍に駆け寄った白崎に対し、双子は不機嫌な声で告げる。
「この馬鹿犬が、うちのトモちゃんにちょっかい出したんだよ」
「トモちゃんのご飯をわざとひっくり返した挙句に、殴りかかってきたんだ!」
「な、なんだと!?」
いや、食器を引っ繰り返されただけで、殴りかかられた覚えはないんだが……。般若の形相になった白崎は、不良の襟首を捕まえてがくがくと激しく揺らす。ちょ、それくらいにしてやれよ。白目剥いてんぞ。
とりあえず、俺は溜息をつきながら床に落ちてぐちゃぐちゃになってしまった料理と食器を、ウエイターさんと共に片付けることにした。
ああ……俺の刺身定食。数食限定のため、もう残っていないかもしれない。
今日はとてつもなく刺身の気分だったのだ。これが半額で食べれるのかと思うと、今後の憂鬱さもちょっと晴れたような気がしたんだ。それなのに……。
「……刺身定食」
「あの、申しわけありません。刺身定食は、これが最後で……」
ウエイターさんのすまなさそうな声がとどめを刺す。ちょっと涙が出た。さっきの言葉は撤回しよう。白崎もっとやれ。食べ物は恨みは深い。
「あの、渡部君、大丈夫?」
顔をあげれば、心配顔の狩谷がしゃがみ込んでいた。片付けを終えた俺は、安心させるように微笑んでみせる。
「驚きはしましたけど、怪我もなかったので平気ですよ」
「本当に?報復して来ようか?」
……今、物騒な単語が聞こえたが、空耳だと思いたい。あれか。どれだけ可愛い形をしていても、不良チームのメンバーということか。
「ええと、本当に大丈夫ですから」
「そう?じゃあ、次の抗争の時はあの馬鹿ワンコを念入りに可愛がっておくねっ」
いやいやいや、そんな可愛く言われても内容がアウトだから。狩谷は、ふわふわとした天然ぽいイメージだったのだが……。
現実から顔を背けるように周囲を見回せば、一連の会話を聞いていた菅谷が、白崎に問い詰められている不良に向かって合掌していた。
「迷わず成仏しろよ」という言葉が聞こえたが、できれば空耳だと思いたい。
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