食堂はカオス


 夕飯は自炊だから、もう食べてしまったんだ、等の言い訳はあったはずだ。だが、突然の双子の登場により、俺は多少なりとも混乱していたらしい。気付けば食堂の二階席に座らせられていた。

 左右に座るのは、むろん俺をここに連れてきた当人たちだ。きっと、佐久間は下の一般生徒用の席で「萌えが見れないー!」と嘆いているだろう。むしろ俺もそっちに行きたいよ。

 現在、二階席にいるは、風紀委員会の生徒が数名と、葛城と若槻、中森の三人を除いた生徒会メンバーだ。

 風紀の方をちらりと窺えば、西園寺と神埼の姿があった。まあ、離れているから気にする必要はないだろう。

「トモちゃんはなに食べるー?」

「……えっと、その“トモちゃん”って僕のこと?」

「そーだよ」

「ねー」

 ぴたっと引っつくな。双方からもはや抱きつかんばかりに引っついてくる凛斗と蘭斗に、俺は笑顔を引き攣らせた。あだ名でいじられているのは葛城だけじゃなかったのか?

「他にはねー、トモぴょんとか、ゆっきゆきとか……」

「トモちゃんでいいよ」

 ある程度のところで妥協しなければ、とんでもないあだ名をつけられてしまいそうだ。

「僕はカレーにしよっと」

「じゃあ、僕はビーフシチュー。ラン、それ一口ちょうだいね」

「いいよー」

 俺を間に挟んできゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐ双子。兄弟仲がいいのは喜ばしいことだ。一階から「弟×兄萌えー!!」という怨念のような思念を感じるが、さくっと無視する。

 悩んだ末に俺が選んだのは、一日数食限定の刺身定食だった。こういう時じゃないと食べれないしな。

 学生向けスーパーで売っているものは、どれも購入が躊躇われるような値段ばかりでなかなか手が出ない。手に取るとしても、たまに特売されているマグロの赤身か、イカやタコといった比較的安価なものばかりだ。

 実家からの仕送りは充分にあるし、食費を心配する必要はないのだが……一度染みついた癖はなかなか抜けないらしい。贅沢は敵だ。

 運ばれてきた刺身定食は、予想を裏切ることなく豪華な内容となっていた。まず、七種類の刺身に、茶碗蒸しと野菜の煮物、アサリの味噌汁、料理長手作りの漬物に、たっぷりの白米。

 学生食堂とは思えない素晴らしさだ。まあ、金額もそれに見合った素晴らしいものだが。

 生徒会役員の特権で、補佐の間はこれが半額で食べられる。正式に役員になると無料。ちょっとだけ役員になってもいいかも、と思ったのはしかたのないことだ。タダ。なんという魅惑的な響き。

 刺身はどれも新鮮そうだ。しかも学生向けだけあって量が多い。白米は日によって炊き込みご飯になる時もあるらしい。ここはどこの料理店だ。

 まずは味噌汁をいただいて、それから刺身に取りかかるべきだろう。あ、でもまだ双子の分が来ていなかった。食べずに待っているか、と思った瞬間だった。

 俺の目の前に置かれた刺身定食が吹っ飛んだ。

 ぽかんとして真正面を見れば、そこには髪をオレンジ色に染め、両耳にはこれでもかといわんばかりにピアスを嵌めた、どっからどう見ても不良にしか見えない生徒が立っていた。

 しかも、なぜかものすごい形相でこちらを睨んでいる。

「てめぇが、炎鬼さんの誘いを断った渡部って奴か、あ゛あ゛……ゴフッ!?」

 反応を返すよりも先に、今度はその不良が吹っ飛んだ。
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