マナの話


  ひとつ、作り話をするね。
  あたし、この学校に転入してきたの。みんな知ってるよね。・・・・・・うん、そう。ちょうど1年前くらい。それでね、転入してきたときに出来た友達に教えられたのがこの学校の七不思議のうち六つ。七不思議って全部知っちゃうと死んじゃうって言うじゃない。だからその子、七つ目を知らなかったんだ。知らないようにしてた、そのほうが正しいかも。でもその子に六つの不思議を教えてもらった後、インターネットでこんなことを知ったの。
「七不思議というもののうち六つはカモフラージュで、一つだけが本物」
  そんな説が囁かれてた。へーえ、なんて思った。そんな発想、する人いるんだなあって。感心しちゃった。だから何気なくその友達に言ってみた。そうしたらその子、じゃあ確かめようって言ってきたんだ。怖いもの知らずだよね。私も人のことを言えたものじゃないけど――つまり、確かめに行ったの。たった二人きりで。夜の学校に忍び込んでさ、声を潜めて暗い廊下を歩いた。え、どうやって夜の校舎に入ったか? そんなの言えるわけないじゃん。大変だったってことだけは言っとくね。犯罪みたいなものだもんね。不法侵入。あれ、もしかして犯罪なのかな。まあいいや。とにかく、二人で確かめに回った。どれもありきたりなことだった。誰もいない音楽室でピアノが鳴るとか、美術室の絵画の目が動くとかそんなこと。どれも怖いもの見たさで覗き込んだりして、小声で囁き合った。ピアノが鳴ったり、目が動いたりしたような気がして声を上げたりもしたけど、夜の学校に勝手に入るっていうのはいけないことだってわかってたから、お互いうるさかったらお互い制止しあった。
でも、結局のとこ、何も起きなかったんだ。私もその子も、なーんだって感じで終わった。もしかしたら七つ目が本物なのかもしれなかったし、それだって試してみたら何も起こらなかったかも。とにかくつまんないねって言い合った。あたしたち二人とも怖い話に対する興味を失って、明日の授業や部活のことについて話し合ってた。そこで、ちょうど体育館の横を通ったの。
  そしたら、音がするんだよね。わかるかな。ボールが跳ねる特有の・・・・・・テンテンって音。その音が聞こえた。誰もいない体育館で誰かがボールをついてる――でも、そんなの聞かされた不思議の中に入ってなかった。それに、横にいる友達を見ても気がついてない様子だったしさ、そのまま帰ったんだ。
  だって気のせいかもしれないし、それに気のせいじゃなくっても、たまたまだったかもしれないでしょ。高いところに置き忘れられたボールが何かの拍子で落ちて、そのまま跳ねたとか、天井に挟まってるボールが落ちたとか。でも、家についてから考えた。もしあの音が最後の七つ目だったとしたら。誰かがあたしを殺しに来るのかな、それとも何か?そんな風に。そうしたら急に怖くなった。だからね、あたしは気が付いてないふりをしてるの。変なものは聞いてない。見てなんて絶対ない。そういう風に・・・・・・。だって、死にたくないでしょ。
  本当はここでこんな風に話すのもやめたほうが良かったのかも。だって、何がどこにいて、なんの話を聞いてるかなんてわからないじゃん・・・・・・。
  全部、作り話だよ。










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