イチロウの話


  ひとつ、作り話をします。
  僕、ずっと昔に・・・・・・そうですね、幼稚園生くらいの時かな。そんな時、一人で話してることがあったんだそうです。何もない、誰もいない空間に。そんなの誰だって気味悪いですよね。僕の母もそうだったみたいで、相談したらしいんですよね。ほら、よくあるじゃないですか・・・・・・育児で困ったことがあったら相談する窓口とかそういうの。僕のうちは僕以外子供がいないんで、はじめての育児だったからそりゃあ不安だったでしょうね。だから僕を連れて相談しに行ったらしいんです。僕には記憶ありませんが。「それくらいの歳のお子さんにはよくあることですよ」って言われたらしいです。こういうの、確かイマジナリーフレンドっていうらしいですね。空想のおともだち。僕はいないはずの作り上げた友達とお喋りしてたんですね。実際よくあることだそうですよ。でも大抵は自然にいなくなるものなんですって。
  でも、僕の場合はそうはならなかった。
  不思議なことに、周りの子達も同じ「空想のおともだち」と遊び出すようになったんです。おかしなことでしょ。だってその「いないはずの子」は僕の頭の中だけの存在のはずだったんですから。その子がなんて名前だったか母も僕も忘れてしまいましたが、みんな僕が口にするのと同じ名前を口にし、その子と遊ぶんです。不気味な光景ですよね。何人にもなって、何もいない空間に話しかけたりするんですよ。背筋が寒くなります。
  親御さんたちはもう戦々恐々としていたそうです。そりゃあそうですよね。まるで夏の特番にでも組み込まれてしまったような光景ですし、外国の人が見たら「子供達に悪魔が取り付いた!」とか言われて儀式を勧められそうな状態です。事実一度僕らのクラスだけ少しの間休みになりましたし。
  結果として、この騒動はその休みが幸いしたのかさらりと解決してしまいました。
  ・・・・・・僕らのクラスが休みになったのはきっかけがあるんですよ。何かっていうと、ある一人のお母さんが言ったんだそうです。
「あら、みんなで遊んで楽しそうね」
  って。それは園児何人かがいないはずの子と遊んでた時のことで、みんなまたやってる、というように見ていた最中に放たれた一言だった。
  まるでそのお母さんにはもう一人が見えていたみたいな言葉ですよね。
  冷静に考えてみれば、そのお母さんはイマジナリーフレンドに対して理解があって、この現象を気楽に捉えていただけかもしれないんですが・・・・・・。今では確かめようもないことです。
  僕もそれから特に架空のおともだちと会話することもなくなったそうです。だからきっと僕の側からその「友達」はいなくなったんでしょう。
  そのはずです。そう、思うようにしています。
  全部、作り話ですよ。









          ←マエ                ツギ→
トップページ