彼の地へ抱く闇と光の協奏曲



読んでいた本を閉じ、少女は胸元を押さえて深く息を吐く。どうも最近、体調が思わしくない。普段通り十分な食事は摂っているはずだし、睡眠だって寮の消灯時間を守っているのだから十分なはずだ。それなのに、また。

健康そのものだった自分の体が、何かに蝕まれていく感覚。頭が軋み、視界が歪む。今晩は特にひどいようで、全身から汗が吹き出た。

隣で眠るルームメイトを起こすまいと必死に声を抑えるが、痛みがひどくなるにつれて息も荒くなる。隣の彼女は大変勘の鋭い生徒だから、きっと自分の異変に気付いている。何も言わないのは、彼女にとって自分は興味の対象ではないからだ。

「っぐ……あ……や……い、や……!」

闇が少女を飲み込んでいく。瞳から、口から、全身から、赤黒いドロリとした何かが溢れ出す。それが自分の中を巡る血液だと理解するのに、そう時間はかからなかった。

「いや……助けて……! 嫌ぁぁぁぁぁっ!!!」

少女の絶叫と共に、闇は退いていく。その場に残ったのは、先程まで少女の読んでいた本と毒々しい大量の血。それを一瞥し、ルームメイトは眉をひそめた。

「彼女も汚してから逝くなんて……本当に勘弁してほしいわね。片付けるのは私なのよ」

自分のルームメイトが悲惨な消え方をしたというのに、冷静そのものだ。机の上に置かれた連絡用の携帯を取り、教官室へと電話をかける。

「マグナム先生ですか、こちら、305号室ですが。……ええ、またです」

何度も見た光景は、それが惨劇だとしても慣れを覚えてしまう。彼女にとってはそれが当たり前のことで、情など湧いてくるはずもない。

制服に袖を通し、寝巻きを畳んでベッドの上に置く。まるで何もなかったかのように、いつも通り机に向かった。高級そうな万年筆を手に、ひたすら分厚い古文書と睨み合う。

「時間がないのに……どうして……!」

掌に乗せた小瓶を握り締め、机に苛立ちをぶつけた。







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