魔女の心情
滞在中の島で、ふと、マルコの姿を見かけたから、猫に姿を変えて様子を見ることにした。『動物もどき』は、学生時代に習得済みだ。
逃げるからには本気で、と島から島へと渡り歩いていたのに、どうやら追い付かれてしまったらしい。
「……収穫なし、か」
路地裏ではぁ、とため息をつくマルコを見ていられなくて、思わずにゃおん、と鳴き声をこぼす。なんだよい、猫か、とこちらに気がついたのか、その大きな手がそっと背中を撫で、顎の下をくすぐる。動物の姿の本能に引っ張られているせいで、ゴロゴロ、と勝手に喉が鳴った。
「……なぁ、お前さん、ソフィアを見なかったかよい」
おれの恋人なんだ、とマルコは、泣き出してしまいそうな、切なげな声でそう口にした。信じてやりたかったのに、あいしているのに、とぽつりぽつりとその心情が吐露されていく。
「大事にしてやりたかったのに、どうしてこんなに上手くいかねぇんだろうな」
相手が私だと分かっていないはずなのに、まるで懺悔するように、愛を乞うように吐き出されていく言葉に胸がいっぱいになる。泣きそうだった。
自分のことばっかりで、マルコがどれほど私を想ってくれているか、分かっていなかった。傷つけたことに傷ついて、必死になって私を探してくれたその意味を何も分かっていなかった。
「……ソフィア。帰ってきてくれねぇか」
今度こそ、もう二度と、お前を手放さないと約束するから。なにがあっても、おれだけは、絶対に味方でいると誓うから。
祈るように、誓うように、そう続けられた言葉だけで、もう十分だった。
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