君と二人でちょうどいい
「マルコ、書類ここに置くから」
「ん」
正式に一番隊所属になったからと言って日々の仕事はあまり変わっていない。マルコの補佐と言ったら正確だろうか。まあ、体を動かす雑用はかなり減ったと思う。
散らかされた書類のミスを指摘しながら分類していく。こういう頭を使う単純作業は嫌いじゃないから、特に苦だとは思わない。
ペンの走る音と紙のこすれる音、それから時計の音が響く静かな空間は中々に心地よかった。
「…そろそろ休憩にする?」
「あー、これが終わったらねい」
「そう。じゃあ、コーヒーでも淹れてくるから、それまでに終わらせといて」
コーヒーより紅茶の気分だ、と返された言葉にそう、と頷いて部屋を出る。時々クルーとすれ違いながら目指す先は食堂。
モビーは大きいから迷子になるなよ、なんて前にエースに言われたけれど、こっちだって伊達にホグワーツで過ごしていたわけじゃない。階段と廊下が動かなくて、絵画の裏の部屋や、ダミーの扉がないなら余裕だ。三日でだいたいの構造は把握したから、迷ったりしない。
「あれソフィア、マルコのとこにいたんじゃねぇのか?」
「さっきまでは居たけど、紅茶を淹れに来たの」
へぇ、とどうしてか驚いた顔をしたサッチに内心首を傾げながら、棚から紅茶のセットを取り出す。品のいい白いカップを揃えたそれは、ティータイムのための私専用セットだ。
「お前ら二人とも休憩の概念がねぇと思ってた」
「失礼な。マルコだけでしょそれ」
「いや、この間、昼飯忘れたのは誰だよ」
「……それは、私だけど」
あれはちょっと思考に没頭してただけで、たまたまだ。そう、たまたま。
紅茶を淹れながら言い訳を口にすれば、サッチはどうだか、とからかうように笑った。
「でも、マルコの方が休みをとらないと思うけど? 休憩の提案は私からだったし」
「それ、前にマルコも同じこと言ってたぞ」
「…無理しすぎだって?」
そうそう、と頷いたサッチに唇をとがらせてみせればまた笑われた。
心配してくれてる家族がいるから、そんなに無理をするつもりはないんだけど、学生時代からの癖は中々抜けないものらしい。本当に気をつけないと。
ーーーーー
「はい、紅茶。休憩にしましょうね」
「これが終わったらにするよい」
「それ、さっきも聞いたし、書類変わってるじゃないの」
いい加減にして、と杖を振ってその手からペンを取り上げれば、マルコは軽く肩を竦めた。まったく、適度な休憩すらしてくれないんだから困ったものだ。
「無理はダメって何回言わせるの」
「お前には言われたくねぇって何回言わせんだよい」
ため息とともに吐き出されたその言葉に、今度は私が肩を竦める番だった。だって調合が終わらないんだか仕方ない。それに、最近はどこかの誰かさんがうるさいからちゃんと寝てる。っていうか、さっきサッチにも同じようなことを言われた。
「じゃあ、お互い様ってことで。以後気をつける」
「ああ。それならいいよい」
ふっ、とマルコが笑うからつられてくすくすと笑ってしまう。こうやって軽口が言える相手がいるのはとても喜ばしいことだと思う。
どうしてかマルコの隣が落ち着くことには気づいているけれど、理由は分からない。今はまだ、考えないことにしている。
君と二人でちょうどいい
互いに支え合える関係が続けばいいと思う
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