緋色の瞳
「ソフィア! 歓迎するぜ!」
「新しい妹よ!」
「近いし酒臭い! 寄るな!」
宴が始まってから時間が立てば、酔っ払いが増えるのは当然で。そいつらが主役であるソフィアに絡むのも当然だが、酒臭いおっさんに肩を抱かれるとか災難としか言いようがない。
とりあえず酒臭いおっさん(別名サッチ)を蹴り倒してソフィアの腕を引く。ちょ、マルコひでぇ! とか声が聞こえたが気にしねぇ。お前が悪いよい。
「どうもありがとう、ミスター。このまま静かなところまでエスコートしていただけます?」
「…どうぞこちらへ、レディ」
軽口をたたきながら、ソフィアの手を引いて甲板の端へ。そのまま何時かのように欄干に背を預けて並んだ。
「随分と紳士的な海賊ね」
「柄じゃねぇよい。変なことさせんな」
「楽しかったけど?」
「そりゃよかった」
くすくす笑うソフィアは自然体で、距離が近づいたような気がする。計算され尽くした笑みより、こっちの方がよっぽどいい。あれも悪くはねぇが、どう足掻いたって素の表情には負ける。
感情をむき出しにした方が、ソフィアは魅力的だ。敵に向ける冷笑も、愛してほしいと泣く姿も、見惚れるほど綺麗だった。今だって、その横顔から目が離せない。
「ソフィア、お前やっぱり素のままの方がいいよい」
「でも、可愛くないでしょう?」
「可愛げはねぇが、綺麗だよい。俺はこっちのが好きだ」
酔いのせいか、口からするすると本音がこぼれる。…我ながらキザな台詞だよい。普段なら絶対に言わねぇのに。
「ありがと。貴方も中々かっこいいと思う」
「…そりゃどうも」
「刺青なんか、とても素敵。私も入れようかしら」
つっと白い指が胸を這い、刻まれた誇りをなぞる。酔っているからか、相手がソフィアだからか、不思議と嫌悪は浮かばなかった。
漂う雰囲気が濃密なものに変わり、柔らかく弧を描いた唇が、やけに色づいて見える。どこか艶を含んだような緋色の瞳から目が離せなかった。
「……ソフィア、お前酔ってんだろい」
「さぁ、どうだろう。酔ってるのは貴方の方じゃない?」
ふふっといたずらな笑みをこぼして、白い指先が離れていく。それを少し残念に思うとか、どうかしてるよい。やっぱ酔ってんな。二日酔いが怖い。
緋色の瞳
色を含んで見えたのは、きっと酒のせい
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