鉛色のお遊び
楽しくなっちまったのさ、そう言った男は唐突に銃を抜いた。意味がわからない。おかしいと言われる私だが、この男よりはまともだろう。
杖を一振りすれば、銃弾は見えない盾に弾かれる。…顔狙ってるとか、本当に物騒。
「『エクスペリアームス』」
怒りをこめて叫ぶように呪文を唱える。杖から放たれた紅色の閃光は、正確に男の持つ銃を捉え、その手から吹き飛ばした。素直にこちらに飛んできた銃を受け止め、男を見れば驚いたような顔をしていた。どうやら、この世界には魔法が存在しないらしい。
「何もしていないと言っているじゃない。あと、銃をこちらに向けないで。撃ってきたのは彼。見てなかったの? それとも目が腐ってるの?」
確かに怪しい女であることは認めるけれど、ここまで敵意を向けられる謂れはない。先に手を出したのはそちらだ。
いっそこのまま、何処かに飛び去ってしまおうか。情報を得る相手は彼らでなくてもいいのだし。
そんな事を考えていると、騒ぎを聞きつけてか、金髪の男が姿を見せた。マルコ隊長! と男達が呼ぶから、立場が上の人間なんだろう。
「ったく、何の騒ぎだよい」
「ああ、マルコか。魔法使いと遊んでただけだよ」
「女性の顔を狙うのを遊びというのなら、ね」
言いながら、銃を投げ返す。何を驚いてるの。別にそんなもの欲しくもない。威嚇として武装解除しただけだ。
マルコと呼ばれた金髪の男も、困惑したような目をこちらに向けた。
「お前、何者だよい。何がしてぇ」
「人に名を尋ねるなら、自分から。これ、さっきも言った」
グリフィンドールのような騎士道を求めるつもりはないが、少しは礼儀をわきまえるべきだと思う。それとも、海賊に期待する方がおかしいの?
「…すまねぇ、俺はマルコ。んで、こっちがイゾウだよい。他は人数が多いから省略させてくれ」
「そう。私はソフィア・ルーカス。姓がルーカスで名がソフィアよ」
やればできるじゃない、と苦笑しながら名乗る。互いに警戒しているから握手はなし。
「それで、ソフィア。お前さん、なんで空なんか飛んでたんだよ」
「…ちょっと待てイゾウ。空飛んでたのかよい」
「ああ。飛んでたぜ、箒で。あと、手に持ってんのは杖だろうな。まるっきり魔法使いだろ?」
くくっとイゾウは笑う。よく笑う男だ。けれど、そのからりとした笑みは不思議と不快ではない。グリフィンドールの双子を思い出すからだろうか。
「そう、魔法使い。それも、異世界から落っこちてきた、ね。この世界の情報が欲しい。だから、人を探していたの」
さて、彼らはこれを信じるだろうか。
鉛色のお遊び
なんて物騒なんでしょう
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