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  いまはもういない人


「裕也はやくー!こっち!」喧騒に紛れて自分の名前を呼ぶ声。それが、風見の手元に唯一残った妻の声の記録だ。新婚旅行の時、戯れに撮った動画。その中で、妻は楽しそうにはしゃぎながら手を振っている。
人は声から忘れていくものらしい。だから風見は今日も同じ動画を再生して、妻の声と姿を刻み込んだ。彼女を忘れてしまわないために。
「…あいしているよ」
今でも、変わらず。これからも、ずっと。

みたいな感じで始まる奥さん亡くしてる風見さんの話。
ほら、刑事ドラマとかでよくある、妻を凶悪犯に殺された刑事って設定のあれ。
奥さん(夢主)死んでるから夢小説? って感じなんだけど気にしない。

風見さんは今でも奥さんのことを愛している。月命日には必ずお墓参りに行くし、毎朝奥さんの写真におはようって言うし、自分の名前を呼ぶ声を忘れたくなくて動画も見る。
家に帰れば彼女が待っていてくれる。そんな毎日が続いて行くはずだったのに。

妻と最後に交わした会話は「今日、雨降るって言うから傘持っていってね」「ああ、分かった。行ってきます」「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね」と、いつも通りの朝のやりとりだった。
ドラマのように喧嘩をしていた、とかなにか約束をしていた、なんてことはない。普段と変わらない朝だった。
雨の中を帰宅して、おかげで濡れずに済んだよ、と妻に礼を言う。そうやって終わる穏やかな日のはずだったのに。
妻が遺体で発見された、とその連絡はどこか他人事のようだった。

これね、何が見たいかというと犯人を目の前にして、ぶっ殺してやる、って殺気立つ風見さんと止めようとする降谷さんが見たいの。

あとね、事情を知らない部下とかに「風見さんの奥さんってどんな人なんですか?」って聞かれて「とても可愛い人だ。懐が広くて穏やかで、料理がうまい」ってまるで奥さんが今日も家で待ってるんだ、みたいなテンションで話す風見さん。

・降谷さんと奥さんの料理の話
降谷さんの作る料理は少しだけ、妻の作るものに似ていて、食べながら無性に泣きたくなったりしてたかもしれない。
奥さん、趣味が料理の人だったから遺品の中にレシピノートとかあるよ。しんどくなるからじっくり読んだことはないけど、イラストも交えてまとめてあるやつ。まとめるまでが趣味。

なんか色々あって、それを目にする機会があった降谷さんが「いい奥さんだな。お前、相当愛されてるぞ」って教えてくれた。過去形にしない優しさ。
「ノートからそんなことまで分かるんですか」「だってほら、ここ」降谷さんが指差したページにはメガネのマークと『お砂糖をちょっと多めに!』の文字。

「時々、こうやってメガネのマークと工夫の仕方が書いてある。たぶん、お前の好みの味にするためのものだろう」って。「それに、バランスのとれた健康に良いレシピばかりだ。お前のことを考えて作ってくれていたんだろうな」って教えてくれた。そんなの泣く。
気持ちが落ち着いたなら自分で作ってみたらどうだ? なんて降谷さんが言うから、風見さん奥さんのノートを参考にちょっとだけ料理するようになったよ。
「…やっぱり君の料理が一番だよ。自分じゃ上手くいかないものだ」って、ちょっと失敗した夕食を食べながら、妻の写真にぼやいたりしてる

・vs犯人
あのね、踏み込んだ犯人の自宅に殺害現場の写真が山ほどあって、その中に自分の奥さんのやつ見つけちゃう風見さんが見たい。その場で吐きかけた。酷い殺され方をしたのは聞いていたし知っていた。だけど、犯人の撮った写真は想像を超えていた。完全に楽しんでいる。そんな奴に彼女は殺された。

奥さんを失って時間が経って、ようやく塞がりかけていた心の傷をもう一度抉られたような状態だよ。立ち直れない。
でも犯人への憎しみで立ち直ってくれていい。追い詰めて行こうね、犯人。
最終的に犯人殺す寸前までいってくれていいよ。で、降谷さんとコナンくん(事件解決してくれた)に止められて欲しい。

「そんなことしたって、亡くなった人は帰ってこないんだよ!!」ってコナンくん。自分の言葉が陳腐に聞こえるの分かってるけど、それしか言葉が出てこなかった。
「やめろ、風見。それ以上は見逃してやれない」犯人をぶん殴る程度なら見逃してやるつもりだった降谷さんだけど、その一線は越えたらいけないって言うよ。

結局、風見さんはギリギリのところで踏みとどまった。犯人の頭の横スレスレを撃ち抜いたりはしたけど。「…法の下で罪を償え。逃げられると思うなよ」って。

それから、奥さんの墓前で終わったよ、って報告して泣いた。
周りは風見さん立ち直れないかもって心配してたけど、腑抜けたりはしなかった。だって、奥さんがそれを望んでないってわかってるから。

なんかそんな感じの、奥さんのことを深く深く愛している風見さんの話。


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