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  酔いどれ


「あー、なんだ、おまえいい女だな…。おれの女ににてる…。あいつすげぇぞ、びっくりするほどかわいい…、まいあさかわいい…、なんなんだよ、すき」

 先程から隣に座った女に『おれの女はかわいい』を繰り返している男。幸せそうな顔をして、呂律の回らない口で恋人への愛を吐き出している酔っ払いは、碧棺左馬刻その人である。普段の彼を知るものが見れば目を疑う光景だろうが、こうして時々飲むことがある銃兎にとっては見慣れたものだった。
 褒め上戸とでもいうのか、左馬刻は深く酔うと何故か身内が可愛い、と口にし始める。主に恋人と妹についてだが、その矛先が自分に向いた時のことを思い出して、銃兎は少し苦い顔でグラスの中身を飲み干した。本人を目の前にしてのあれは、誉め殺しにも程がある。

「なんであんなにかわいいんだよ…。すげぇ、すき。…いっしょうだいじにしてぇなぁ…。なあ、おれの女はかわいいんだぞ、しってるか」

 そして、左馬刻の隣でその誉め殺しを現在進行形で受け止めている女。彼女こそが、左馬刻が先程から口にしている『おれの女』である。酔いすぎて判別が付いていないのか、本人に向けて惚気ているものだから、それは愛の言葉を吐き出しているとの何ら変わらない。
 助けを求めるように視線を寄越す彼女が少し可哀想になってきたので、助け船を出そうと銃兎はようやく口を開いた。

「左馬刻。似てるんじゃなくて、それがお前の女なんだよ」

「ん…、あー?」

 ぼやぼやと定まらない視線を傍の彼女に向けて、じっ、とその顔を見つめたと思えば、左馬刻は、へらり、と嬉しそうに締まりのない笑みを浮かべた。

「なんだよお前かよ…、どうりでかわいいと思ったわ…、つーか、あさより美人になってるじゃねぇか、どうした…」

 かわいいなぁ、としみじみ繰り返して恋人を抱き寄せる左馬刻は、それはそれは幸せそうな顔をしている。あー、すげぇ好き、と腕の中に収めた彼女の頬に何度もキスをしてご満悦だ。

「……すまん」

 助け船どころかトドメを刺した形になってしまい、銃兎は素直に彼女に頭を下げた。
 まあ、顔を赤くして恥ずかしがっているが、本気で嫌がっているわけではなさそうなので放っておいても大丈夫だろう。要はただの恋人同士の戯れなのだから。


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