片方だけのピアス
チェーンにぶら下がった丸いプレートがゆらゆら揺れる、女性ものの華奢なピアス。その小さなピアスについた土埃を服の裾で拭う。月明かりを反射して安っぽい金メッキがきらりと光った。
彼女の耳元でちゃりちゃりと音を立てるそれを眺めているのが好きだった。時々、指を伸ばしてわざと揺らしてみたりして、彼女がくすぐったそうに笑う瞬間が愛おしかった。
「メイス、それは?」
男の手元に置くには不似合いな、しかも片方だけのそれが気になったのだろう、リオの問いにメイスは恋人のです、と軽く答えた。
「いつか返してやらなきゃだから、大事に持ってるってだけですよ」
「…すまない、妙なことを聞いた」
短いやり取りで彼女の身に降りかかったことを察したのだろう。リオが申し訳なさそうな顔をしている。掘り下げていい話題ではなかった、とそう思っているのだろう。
「あの子のこと、自慢したかったから、なんでも聞いてくれていいんですよボス」
「……そうか。どんな人なんだ、お前と付き合っていけるような女性は」
そりゃあ、世界一の別嬪さんで、とメイスが話すのをリオは静かに笑って聞いてくれた。
あの子は、まだ、どこかで生きているだろうか。
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恋人と生き別れてるメイスの話。何だかんだ恋人さんは生きてたので、本編後に再会するやつ。
彼女が生きているのなら、もしかしたら、って探したし、見つけた瞬間に抱きしめたし一緒に泣いた。
片方だけになってしまったピアスを、彼女は今でも身につけている。
ちゃりちゃりと音を立てるそれを、メイスは今日も愛おしく眺めている。
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それはそれとして死ネタにしても良いと思ったから、そっちも書いとく。
たくさんのバーニッシュの中に、彼女はいなくて、みつからなくて、実験の途中で亡くなったのだ、と記録だけ残っているのを後で知った。灰になって消えてしまった彼女は何も残してはくれなかった
必ず守ると、助けると決めていたのに、間に合わなかったのだ。小さなピアスが形見に残っただけ。悔しくて悲しくて、けれど涙は出なかった。
彼女の最期を看取ってくれたバーニッシュの女の子が、あとで色々教えてくれて、そこではじめて泣いたりしたかもしれない。
メイス、って最期のその瞬間まで、名前を呼んでいたんだって。
小さく華奢な似合わないピアスを身につけて、彼女の分まで生きていく
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