七武海とまりんちゃん!
・ミホークさんがだいぶぶっ壊れてる気がする
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「てめぇがロリコンだったとは知らなかったぜ」
「フッフッフ、言ってくれるじゃねぇかワニ野郎」
なにをどうしてこうなった。本当に。どうして私はドフラミンゴの膝の上にいるのだろうか。いや、いきなり控え室にしてた部屋にこいつが来たからいけないんだけど。今回はちゃんと元帥の忠告を聞いて大人しくしてたのにどういうことなの。とりあえず爆笑しながら見送りやがったマネージャーはくたばるべき。
「あのー、まりんお仕事あるので戻ってもいいですか?」
「まあそう、つれねぇこと言うなよ。もう少し遊んでいきな」
いや、遊んでるのはお前だけだ。こっちは全然面白くない。むしろ怖い。
しかも、どうしてこういう時に限って参加者が多いのだろう。ドフラミンゴと暴君くま、海侠のジンベエはよく来るらしいけど、なんでクロコダイルと鷹の目までいるの。圧迫感がすごい。助けてサカズキさん。いや、もうこの際、心配そうにこっちを伺っているジンベエさんでもいいから。
「いえ、でも…」
「クハハ、振られてやがる。ざまぁねぇな」
お願いだから煽らないで。お願いだから。
そんな願いもむなしくドフラミンゴが糸を放ったらしい。クロコダイルが座っていた椅子と一緒にバラバラになった。ぶわりと広がった砂がクロコダイルの体に戻っていく。あ、怒ってる。
「フッフッフ! やり合いてぇなら、素直にそう言えよ」
「ああ、そうだな。死ね」
一直線に飛んできた砂の刃が目の前で弾ける。何が楽しいのかドフラミンゴは笑いながら私を膝から降ろすと、クロコダイルに突っ込んでいった。
なんなの、本当に。殺気に体が竦む。砂と糸とが派手にぶつかって、部屋のあちこちが破壊されていく。
目の前の非日常に頭が追いつかなくて、逃げ出すこともできずにいたら、目の前に逸れた砂の刃が迫っていた。
あ、これまずいやつ。そう思った瞬間、ぐっと体を引き寄せられた。がん、と何かがぶつかる音。
恐る恐る見上げれば、大きな剣で攻撃を受け止めた鷹の目が、無事か、と確認しながら私を見下ろしていた。
「おいおい、どういう風の吹き回しだ鷹の目」
「…彼女のファンだからな」
「わぁ、ありがとうございます♥」
反射的に答えてしまうのは癖だ。え、ファンなの。海兵や海賊だけじゃなくて七武海にもファンがいたの。しかも、鷹の目。剣以外に興味なさそうなのに。
驚いているのか、喧嘩をしていた二人も動きを止めている。そんな中で鷹の目はどこから取り出したのか色紙を差し出してきた。
「あ、サインですか?」
「ああ」
「鷹の目さんへ? それともミホークさん?」
ミホークで頼むという要望に従って、ポケットに常備しているペンで色紙にサインを書く。さらっと素早く。慣れたものだ。
はい、応援ありがとうございます♥と色紙を返せばほんの少しその表情が柔らかくなったような気がする。意外と怖い人ではないらしい。少なくともドフラミンゴよりはマシ。
「そういうわけだ。これ以上続けるなら相手になるぞ」
「フッフッフ!いい趣味してるなぁ、鷹の目」
「てめぇとやる気はねぇよ。おれは降りる」
面白ぇ、と爆笑しているドフラミンゴと、大きなため息をついたクロコダイルが対照的だ。
クロコダイルは降りるという言葉通り軽く手を振って敵意がないことを示したけど、ドフラミンゴは鷹の目に相手を変える気らしい。面白ければいいってなんなの。
ドフラミンゴが手を動かして、ひゅ、と空を切る音。瞬間、鷹の目の剣が振り下ろされた。
正直、目の前で何が起こっているのか理解できない。だって私は一般人。っていうか早すぎて見えない。ただ、鷹の目が私を守ってくれていることは分かった。いい人だ。
「…どうしよう」
床や壁が容赦なく破壊されていく中で、下手に動く事もできない。逃げ出したいのにそれもできなくて泣きそう。もう無理、怖い。
「ほれ、こっちじゃ」
「え、あ、はい!」
そんな中で不意に私の腕を引いたのは、さっきから心配そうに様子を伺っていたジンベエさんだった。正直、顔は怖いけど、七武海の中でもまともな方だっていうつる中将の言葉に嘘はなかった。
「鷹の目が相手をしてる間に、さっさと逃げた方がいいじゃろう」
そう言ってジンベエさんは、安全なところを選んで、扉のあたりまで誘導してくれた。やっぱり優しい人だ。顔は怖いけど。
「あの、ありがとうございます。ミホークさんにも伝えておいてください」
「ああ。ほれ、早く行かんか」
丁寧に頭を下げれば、ジンベエさんは構わん、と笑ってくれた。
室内からは戦闘の音が聞こえてくるけど、ここは海軍本部だからそう大事にはならないだろう。たぶん。
駆け足気味に会議室から遠ざかる。目指すはサカズキさんの執務室だ。だってもう無理、怖かった!
七武海とまりんちゃん!
執務室に飛び込んで、サカズキさんの顔を見たら情けないことに泣いちゃった。でも、頑張ったなって、頭を撫でてくれたサカズキさんがやっぱり好き。
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