続いたの | ナノ


  はじめてのおつかい


「なにを買うのかちゃんと覚えた?」

「ちゃんと覚えたよい。フルーツタルトに使うフルーツ!」

「りんごとオレンジと、イチゴとぶどう!」

 ちゃんと覚えてる! とマルコとサッチは元気に買い物内容の確認をしてみせた。もし忘れてしまってもメモを渡してあるから大丈夫。
 マルコは小さながま口の財布を首にかけて、サッチは買い物袋を持っている。2人はこれから『はじめてのおつかい』に出向くところだ。

「それじゃあ、果物を売っているお店の場所は?」

「そこの魚屋さんのところを右で、そのあとは本屋さんを左!」

「そのあと、ずーっとまっすぐ!」

 船からそう離れた場所ではないから、迷子にはならないだろう。わざわざ、昨日も訪れた店を選んでいるし、マルコもサッチも年の割に聡明な方だから、道を間違えることもないはず。

「じゃあ、気をつけることは?」

「目立つから、能力は使わないようにする!」

「危なそうなところには近づかない!」

 よくできました、と一通り確認を終えて、小さな子供達の頭を撫でる。嬉しそうに目を細めて、本当に可愛い。
 ここは治安の良い島だし、あちこちに散策や買い物をする家族がいる。危険がないことも十分に確認したから、きっと大丈夫だろう。

「それじゃあ、行ってらっしゃい。気をつけていくのよ」

 はーい! と元気な良い子のお返事をして、マルコとサッチは『はじめてのおつかい』に出発した。
 少し進んでは振り返って、手を振る可愛い2人にに手を振り返して、魚屋の角を曲がるまで見送って、ふう、と息をつく。

「それじゃ、私も行ってこようかしら」

 軽く錫杖を振れば、すっ、と体が周囲の景色に溶けて見えなくなった。光の屈折を利用した簡単な魔法で姿を消して、2人の後を追いかける。過保護と言われようと心配なものは仕方ない。

ーーーーー

「おふくろ喜んでくれるかな」

「ちゃんとできたから、大丈夫だよい」

 重たくなった買い物袋を2人で持って、喜んてくれるかな、なんて顔を見合わせる子供達。とても可愛らしくて、思わず頬が緩む。
 後ろからずっと見守っていたけれど、マルコとサッチは特別大きなトラブルもなくおつかいを終えてくれて安心した。
 船から見えるところまで来たので、そっと2人を追い越して船に戻る。帰ってきたら、真っ先に迎えてあげないと。

「戻ったのか、ソフィア」

「…なんで見えないようにしてるのに分かるのかしら」

 船に戻れば、小さな子供達を心配してかニューゲートが甲板に出てきていた。近づいた私を真っ直ぐに見下ろして声をかけてくる。周りからは見えないように魔法をかけていたのに、どうして分かるのだろう。本当に不思議。ニューゲートはいつもそう。
 素直に魔法をといて姿を見せれば、ニューゲートはおかえり、といつも通りに私を抱き上げて肩に乗せてくれた。

「馬鹿なこと聞くんじゃねぇ。お前がどこにいたっておれには分かる」

「…惚れてるからでしょ。知ってる」

 あんまり恥ずかしいこと言わないでほしい。愛されてるのは嬉しいけど、毎日この調子だから本当に困る。
 照れ隠しに軽く頭を叩いてみてもニューゲートはグラグラ笑うだけだ。本当にもう!

「あ! オヤジ、おふくろ、ただいまー!!」

「ただいま! ちゃんとおつかいしてきたよい!」

 ニューゲートとそんな話をしているうちに子供たちは船に帰り着いたみたい。ちゃんとできた褒めて、とばかりに見上げてくる。あら、可愛い。

「よく頑張ったじゃねぇか。偉いぞ、マルコ、サッチ」

 ニューゲートの大きな手に頭を撫でられて、少し転びそうになりながらもマルコとサッチは嬉しそうに笑った。
 まだまだ小さな子供で、おつかいなんてできないかもしれない、と思っていたけど、2人とも知らない間に成長していたらしい。嬉しいことだ。

「それじゃあ、ちゃんとおつかいができたよい子にフルーツタルトを作ってあげなきゃね」

 ふわふわ、と体を浮かせて2人のところに降りて、重たくなった買い物袋を受け取る。いい子ね、と褒めてあげれば、マルコとサッチは誇らしげに胸を張ってみせた。

はじめてのおつかい


『おふくろの手作りフルーツタルト』は子供たちにとても喜んでもらえた。

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