抱えきれないほどの愛をあげる
それはもう熱烈な勧誘の末に絆されて、ニューゲートという男の船に乗ることになって一ヶ月がたつ。私の年齢すら気にしなかった彼は本当に懐が深い。
まさか、自分が海賊になるなんて思ってもみなかったけれど、これはこれで楽しいからいいかもしれない。ただ、困っていることが幾つかある。
「あ、おふくろおはよー」
「おふくろー、オヤジが呼んでたぜ」
「だから、おふくろじゃないって言ってるでしょう」
一つは、クルーたちが私のことを「おふくろ」と呼ぶこと。皆が家族なのだというこの船の方針はとても好ましいと思うけれど、私は「おふくろ」ではない。
別にニューゲートとはまだそういう関係じゃないし、そもそも私の見た目は少女だ。それでも躊躇いもなく彼らは私を「おふくろ」と呼ぶ。
子供のできない体だから、望んでも叶わなかった呼び方だ。それが少し嬉しいような気がするから困る。
「ソフィア、好きだぜ」
「…知ってる」
それから、ニューゲートが毎日のように好きだ愛してると告白をしてくるのにも困っている。今日も少し耳が熱い。
いくら素っ気なく返しても、ニューゲートはグラグラと機嫌良く笑うだけ。本当になんなの、この人。
それから、困っていることはもうひとつ。
「てめぇは下がってな」
「またそれ!」
私だって戦える、と主張したところでニューゲートは聞く耳を持たない。曰く、惚れた女くらい守らせろ、らしい。
戦うのは好きじゃないから、それでいいのかもしれない。だけど、ニューゲートは平気で無茶をするから、放っておけなくて困っているのだ。
「ああ、もう本当バカ!」
ニューゲートの背中を狙った銃弾をボルグで弾き飛ばす。手ェ出すなソフィア、なんて言われたけど知らない。手を出さなきゃ当たってた。
海軍との戦闘は日常茶飯事で、その度にニューゲートは怪我をする。私を庇ってのこともあって、もう我慢できなかった。
「私だって惚れた男くらい守りたいの!!」
叫ぶように胸のうちを吐き出せば、ニューゲートが僅かに目を見開く。半ば告白のような台詞を吐いた気がする。あ、やだ、今更恥ずかしくなってきた。
「とにかく! 守るから!」
異論は認めない。認めないったら認めない。顔が熱いのは叫んだからで、別に照れてない。違うから。
思わず頬を押さえて熱を冷まそうとすれば、ニューゲートがグラグラと地面を揺らすような独特の声で笑った。
「なら、背中は任せたぞ」
「背中といわず、防御全部任せて」
私の言葉に、そうか頼む、とニューゲートは海兵たちに突っ込んで行く。だから、錫杖を握る手に力を込めて、彼の周囲にボルグを展開した。
本能的な回避さえせずに、ニューゲートが薙刀を振る。それは、私への信頼の裏返しで、とても嬉しい。勇敢なその姿はとてもかっこ良く見えた。
拳も剣も、銃弾も、砲弾でさえも、彼を傷つけることは許さない。邪魔なんて、私がさせない。
ピィ、と周りでルフたちがざわめいた。
ーーーーー
「ソフィア、好きだぜ」
「……だから、知ってる」
戦闘が終わって、怪我一つしなかったニューゲートは、私に歩み寄るなりそう言った。顔がぶわりと熱を帯びる。ようやく落ち着いたのに。
だけど、やられてばかりは嫌だから、体を浮かせてニューゲートと目線をあわせる。どうした? と首を傾げた彼は、とても楽しそうな顔をしていた。
「…わたしも貴方が好きよ、ニューゲート」
愛してるわ、と微笑んで、恥ずかしいけれどキスを一つ。離れてみればニューゲートの頬は少しだけ赤かった。だけど、多分私も同じ。
「俺だって愛してらぁ」
照れくさそうにそう言って、彼は私を抱きしめてくれた。
抱えきれないほどの愛をあげる
なんだかとても幸せで、少しだけ泣きそうになった
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