ゆきが好き (岩倉雪彦)


はぁー、と吐いた息は白くなって音もなく消えていく。澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込むとまた新しい一日がやって来たのだと嬉しくなる。
私はそんな冬が大好きだ。


「ユキ、起きて。外、雪積もってる!」

暖かい部屋に暖かいお布団。そんな所で気持ち良さそうに眠っている彼の名前を呼べば、なんとか目を開けた彼に睨まれる。

「……俺がなんだって?」
「ユキじゃなくて雪!外見てよ」

ほら! と彼の手を引っ張ると窓際に連れ出す。いつもはツッコミが冴えている彼も寝起きではまだ上手く頭が働かないのか、私になされるがままでおかしい。
そんなことを考えながら窓の前に立つと勢いよくカーテンを開けた。

シャッという音と共に飛び込んできたのは眩しい光だった。朝日と、雪に反射した朝日の光だ。
昨晩とは全く違う真っ白な世界に何故だか自慢げになって、雪積もってるでしょと笑う私とは対照的に、彼はまだ眼鏡をかけていないからなのか眉間に皺を寄せると窓の外を睨んでいた。

「……これ電車もバスも止まってんじゃねぇの」

彼が怪訝そうに呟くと更に眉間に皺が寄る。目も更に細まる。

「そんな怖い顔しなくてもいいじゃん」
「お前は都会で過ごす人間にとってどれだけ電車やバスが大事なのか知らねぇからそんなことが言えんだよ」

そうして彼がはぁーと大きく吐いた溜息はすぐに部屋の中へ消えていく。
雪国育ちで、上京してからは雪とも疎遠になっていた私からすると東京での雪というものは未知数で。だけどそれでも雪が降る度に大袈裟だと思うくらいにニュースでも騒がれていたのは知っている。

「まあでも今日が休みの日で良かったね」
「そうだな。仕事の日だったらどうなってたことか……」

ふっと彼の表情が緩んだのを確認してから、私は息と一緒に久々に見た雪への思いも吐き出す。

「それでも私は雪って好きなんだけどなぁ」

そうしてふふっと笑えば彼がこちらを見ていることに気がついた。

「じゃあもう一回寝るか」

にっと笑った彼は私の腕を引っ張ると今度は私をお布団へと連れ戻す。

「……もうエアコン付けて部屋も暖めてあるのに」
「もう少しだけだよ」

彼は目を細めながら私をお布団に手招くと、悪戯っぽく言って笑うんだ。

「“ゆき”が好きなんだろ」って。

その言葉が当たっているからと絆されてしまう私も私なのかもしれないけれど、それでもこの温もりからは抜け出したくないのだから仕方ない。久々の雪もいつものユキもいいものだ、なんてことを彼の隣で思った。


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