可愛い僕の彼女 (鴫野貴澄)

彼女は僕がどれだけ可愛いって言っても信じてくれない。
貴澄は優しいから、貴澄は私のことが好きだからそう見えるだけでしょって笑うんだ。
でもだったら僕はこうしていつもヤキモチを妬くはめになんてあわないはずなのに。


彼女とは大学のバスケサークルで出会った。初めはコロコロ表情が変わって面白い子だなっていう印象だったけど、一緒にバスケをしていて楽しい所とか話していて気が楽な所とかそういう所にいつの間にか惹かれていた。
だからよく目が合うのだって、よく話してくれるのだって僕が彼女を気になっているからそう感じているだけだと思っていた。でもどうやらそれだけではないようで、「あの子、貴澄のことよく見てるよな」と旭に言われた時にはいても経ってもいられなくなっちゃったんだっけ。
それから僕から告白したら、彼女も僕のことを好きだと言ってくれたからお付き合いをすることになった。
友達同士だった時には見ることがなかった彼女のもっとたくさんの表情を知って、また好きが積み重なった。だからそんな僕に可愛いと言われたって信じられないのも確かに無理はないのかもしれないけれど。

**

旭のお姉さんがやっている喫茶店でのお喋り。それはもう僕らの日課のようなもので、他のお客さんの迷惑にはならない程度にしょっちゅう通っている。
彼女はそこでするお姉さんとの会話が好きらしくて、私お姉ちゃんが欲しかったから嬉しいんだといつも楽しそうにしている。だけど僕はというと放っておかれているわけだから少し楽しくはなくて。旭やハルたちがいる時は話し相手になってくれるからいいけど、それでもやっぱりちょっと面白くなくて。お姉さん相手にヤキモチを妬いてしまう。


「……貴澄の彼女ってさ、可愛いよな」

いつもの彼女たちの会話待ちのいつもの時間。話し相手になってくれている旭の話も半分に、彼女を眺めていたら突然旭がそんなことを言った。

「ちょ、ちょっと旭!?この子は好きになったらダメだからね?」

だから慌てて立ち上がると、彼女の所まで行って。お姉さんとの話の途中なのは分かっているけど彼女をぎゅっと抱きしめて旭をにらむ。

「わーってるよ」

ふっと笑った旭は「つーかそういう意味で言ったんじゃないからな?」と眉をひそめている。「じゃあどういうこと?」と頬を膨らませていたら「貴澄〜?」と不思議そうに顔を見上げられたから、謝ってから彼女を解放する。

「それでどういうことなの?」

再び旭の向かいに座ると、旭をきっとにらむ。だけど旭は全く怯む様子もなく、僕の彼女とお姉さんの方に視線をやった。

「貴澄の彼女って、貴澄のことが大好きだ〜!ってオーラがすごいだろ? そういうのが可愛いなって思っただけだよ」
「……だからダメだよ」
「だからそうじゃないって言ってるだろ!」

じとっとした目でまたもや旭をにらむ。旭の声が大きくなったけどそんなことは関係ない。だって彼女が可愛いと言われるのは嬉しいけれど嬉しくないから。

「あー、だからさ、お前も好きだろ?彼女のこと」
「うん、好きだよ。大好き」
「だろ?だからそうやって好きな者同士がお互いが好きだって分かるのはいいよなってことだよ。自分が好きな子が、あれだけ自分のことを好きだって思ってくれているなら可愛いだろ、絶対」

突然旭が饒舌に早口になった。

ああ、なるほど。ということはつまり――、

「旭も彼女が欲しいんだ?」
「まあこれだけ見せつけられてたらなぁ」
「へー、そっか。ふ〜ん」

ニコニコ笑うと、恥ずかしくなったのか旭が声を荒らげる。

「おま、貴澄!バカにしてるだろ」
「え〜、そんなことないけど」

あははと笑うと「なに騒いでるの?」と彼女がやって来て僕の隣に座った。

「ほら、な。出てるだろ、オーラ」

小声で口をパクパクさせる旭と、不思議そうに僕を見つめる彼女を交互に見ると嬉しくて頬がつい緩む。

「キミが可愛いって話してたんだ。ね、旭?」
「まあそうだな」

「えー、本当に?なんか変なこと言ってない?」と怪訝そうに頬を膨らませた彼女を見て、やっぱり僕の彼女は可愛いなと思った。だけど少しは自覚してくれないとそろそろ僕だって困るんだけどね、なんてさ。




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