バレンタインは甘くない (倉持洋一)


彼女がいかにもな義理チョコを男どもに配っている。

だけどそれはこの間、女子みんなでチョコ配ることになったんだ。義理だけど! と一緒に帰っている時に彼女が教えてくれたそれだ。
……しかし、ンなことが分かっていたって面白くはないというのが男心というもので。なんとも面倒臭い、彼女には知られたくないそんな想いを抱えながらも俺の視線は彼女を捉えて離さない。


買い出し係にラッピング係、それに手渡し係。
しっかりと役割分担された係には、一人につき一役と仕事が決まっているらしい。そして俺の彼女はというと、よりにもよって手渡し係となってしまった。だから見たくもねぇ自分の彼女が他の男にチョコを渡す様子が嫌でも視界に入ってくる。
義理だと言われているのに嬉しそうに頬を緩めるヤツらに、義理だっつってんだろ。俺の彼女だぞ、分かってんのかと心の中で呟き睨みつけても、ソイツらの表情が正されることはない。それがやっぱり面白くなくてチッと舌打ちをすれば、ふふっと笑いながら彼女が近付いてきた。

「倉持くんもどーぞ」
「……おー、ありがとな。みょうじ」

俺にも、他の男にやっているものと同じチョコが彼女から手渡される。視線を逸らして受け取れば、もう少しで終わるから残りも配ってくるねと彼女は再び笑って戻っていく。するとやっぱり彼女からチョコを手渡されたヤツらが頬を緩める。

「……くそ、面白くねぇ」

彼女が悪いわけではないことも、チョコを貰って喜ぶのが悪いわけではないことも分かっている。俺の心が狭いらしいからそれが許せない、ただそれだけ。それでもそのことが分かっているからといって笑って見ていられるわけではないし、してもいいのならば今から一人ずつに技をかけていきたいくらいだ。なんてったって俺の心が狭いらしいから。

それでもそんなことはするわけにはいかず、どうしたって俺の目は彼女を追ってしまう。だからそれを遮るために机に顔を突っ伏せば、冷たい机でいくらかは頭も冷静になる。

「こんな俺、絶対に知られたくねーわ」

はぁと溜息をつけば、私は倉持くんのことはなんでも知りたいよという声が上から振ってきた。
聞き慣れた声に嬉しくなったのを落ち着かせるべく深呼吸をしてから顔を上げる。するとそこには想像した通り彼女がいて、こちらを見て笑っている。

「配り終わったよ、義理チョコ」
「そうみたいだな」

空になった紙袋を覗いて笑ってみせると、彼女がずいっと顔を近付け覗き込んできた。

「倉持くん、妬いてくれてたの?」

突然のその質問に驚いて思わず目が丸くなってしまい、言葉に詰まる。だけど今更カッコつかないのも分かるからいっそのこと開き直ることにした。

「めちゃくちゃ妬けたに決まってんだろ」

にっと笑えば、彼女がそっかと呟いて頬を緩めた。そんな彼女の表情を見たからなのか顔が熱くなった気がした。

「悪かったな、心がめちゃくちゃ狭くて」
「何回も見てきてたもんね」
「……なっ、バレてたのかよ!?」
「バレバレだったよ」
「マジかよ」

ふふっと笑う彼女の頭をくしゃくしゃと撫でれば、そんなことする倉持くんには本命チョコあげないよ〜? と彼女が笑うから反射的に手が止まる。

「それは、いる。……つーか、それも、いる」
「分かった。持ってくるね」
「おう」

彼女の背中を見送ると少し冷静になった俺は、ここが他のヤツらもいる場所だということをようやく思い出した。嫌な予感がして周りを見渡せば、どいつもこいつも俺を見てはニヤニヤとしている。


倉持も可愛い所あんじゃんとニヤつくコイツらをどうしてやろうかと指をポキポキ鳴らしながら立ち上がると、とりあえず彼女が戻ってくるまでにはコイツらを片付けて他の場所に移りたいもんだと溜息をつきながら、ヒャハハ!お前ら覚悟は出来てるよな? とひとまず近場のヤツに飛びかかった。




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