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さて街に繰り出したのはいいが、違和感二つ。一つは遊戯が嬉しそうに引っ張っている手、もう一つは視界に入る人外の色合いと翼。十代は目をこすり、瞬き、またこすりを繰り返す。だが何度見直そうにも背中から抱きついてきたのは自分の守護霊的存在であり、遊戯の握った手の延長上にはユウギの困った顔が見える。
あっれぇ?と真顔で遊星を盗み見るが、買い食いに夢中で気にしていない様子。俺はつっこみじゃあないはずだ、誰か来てくれ…っ!十代の願いは虚しく心の中の覇王の首を傾げさせた程度で終わった。


「なぁ遊星。」

「なんですか?」

「この背中のふた☆なり人外と目の前に遊戯さんが二人、見えるよな?」

「…そうですね。」


見えてはいるようだが反応が薄い。休憩中に互いの相棒については精霊とファラオの魂は普通見えないと説明したはずなのだが、この蟹頭は理解していないのだろうか?実は頭は緩いのかそうなのか、と勝手に自己完結すると遊星がたこ焼きを唇に押し付けてきた。聞こえたのか、否聞こえるはずはない。ただの善意だろうが普通に熱い。無言無表情無反応の善意はなかなか怖い。


「って二人共聞いてるの!?」

遊戯のプリプリと擬音語で表せそうな怒りでやっと気がついた。急いで頬張ったたこ焼きが熱い。嫉妬に燃えるユベルの視線も熱い。そんなことよりも今目の前にある建物は確か遊戯の家であるカードショップ。立ち止まってユウギを抱きしめると軽く家について紹介してくれたが以下省略。それよりも説明よりこっちの方が長かった。


「えっと今皆さんが気になってるであろう、この実体化事件!これは単に未来人がきたという異様な力と赤き竜とやらの謎の力が働いて起こった現象なんだ!別に害はないし、ユベル君は周りの一般人共には人間の姿に見えるから大丈夫だよ!」

「説明ありがとうございました。質問なんですが、遊戯さんが二人いたら周囲は大騒ぎでは?」

「もう一人のボク?もう一人のボクは心の綺麗なデュエリストにしか見えないから。さぁ次行こうか!ボクらが有名人ならこの時代のことも有名でしょ?」


面白いものは特にないしと急かすとヘリコプターの音。途端にユウギの顔が歪み、遊戯が二人を押す力が強まった。
ヘリコプターから降りたのは一本の縄梯子。そして謎のはためきをするコートに身を包んだ我らが社長。


「遊戯ぃぃぃぃぃ!今日こそデュエルだぁぁぁぁ!」


拡声器涙目の大声に二人分の舌打ち。ゆっくりユベルと目を合わせると、海馬に後ろ指を突きつけ微笑む遊戯。


「ごめん、撃ち落としてくれない?」

ここまで怯えるユベルも珍しいな、と十代は遊星からたこ煎餅を食べさせて貰いながらぼんやり考えていた。

*

見えたのは巨大な三色の屋根の建物。周囲は海しか見えず、ここは孤島なのだとすぐに納得。別に構わないがDホイールが錆びたらどうしようかと心配していたら、十代がアカデミアの前に停めれば?と言う。防水加工はしてあるし、いざとなったら帰ってから直すからいいだろう。
遅くなったが、ここが十代の過ごしたデュエルアカデミアである。


「デュエルの学校なんて出来たんだな…」

「俺の時代もありますよ。」

「デュエルも進歩したねぇ…」


口を開けてる先輩二人の前で、ファラオを抱き十代は誇らしげにしている。先程から上空へ上がっていたユベルが、いきなり降りてきた。


「十代…アイツがいるよ。」

「アイツ?」

振り返ると見慣れた緑の髪。彼の親友らしい、ヨハンという男が走ってくるのが見えた。十代も自然と笑顔になり抱きしめ合う寸前にユベルが邪魔をした。ユベルはヨハンとやらが嫌いらしい。ドローパンを食べながら納得しているとユウギが物珍しそうに寄ってきたため半分上げた。なんか金色の卵が顔を出す。うまかった。


「うわぁっ何でユベルが実体化した!!?」

「いい反応だぜヨハン…。後で説明するわ。」

「十代!!もう行こうよ!!」

「おいおい…」

ぐいぐいとユベルに引きずられつつ手を振る十代には、黙って手を振り返すしかヨハンは知らなかった。しかし後ろの見慣れない三人に目が止まり状況が変わった。そのうち二人が超有名人だと気づくや否や大声を張り上げて指をさす。人を指差してはいけない、と習わなかったのかこの緑は。そんな遊星の辛辣かつ天然な台詞は誰の耳にも届かなかった。


「ちょっ!?そこにいるのは遊戯さん!?」

「そうだぜ?」

「なんでそんな有名人がここにいるんだよ!!」

「いるからだろ?つかヨハン、肩からお前の相棒落ちた。」

十代とは元々このようなキャラらしい。淡々と冷静なのか、天然なのかわからない対応で相手のハイテンションを受け流す。ユベルはユベルで「早く行こうよ、コイツに関わってもろくなことないよ」と、とことんこの少年と関わり合いになりたくないことを言動全てで表現する。一体どんな仲なのだろうか、後で聞いてみよう。


「まぁまぁヨハン、後で説明してやるからさ。そうそうお土産何がいい?」

「…家族達の餌。」


今よくわからない単語が聞こえた。家族なのに餌?それよりさっきの「肩から相棒が落ちた」とは何だ?何かいたのか?
先輩二人を振り返るが二人も首を傾げる。あぁ多分彼は電波なのだろう。今度こそ、と十代を引きずってくるユベルがすれ違ったのを合図に皆も愛車に集まってくる。
嵐が過ぎたように気がついたらもう皆の姿は見えなかった。




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