1.きみが愛しすぎるから

ぐ、っと、息苦しさを感じて息を吐く。
微睡む意識の中で必死に瞼をこじ開けて首を左右に動かしてみると妙に頬がむず痒い。
右側に視線を動かせば、紫色の毛束が視界の隅に入ってきた。

合鍵を渡して以来、この紫頭の巨人は度々こうやって私を夢から引きずり出してくれる。
こいつ、自分がどれくらいの重さをその身に宿しているのか知らないわけではあるまい。
第三者視点から見ればあれだ、さながら超大型巨人が普通サイズの巨人の上に倒れこんだ、みたいな…。
とりあえず、重い。

「あつしー…おもいー」

手も動く範囲が限られているし、せいぜい彼の腰の辺りを擽れる程度だ。
これじゃこの巨人は目を覚まさないことはこれまでの経験で重々承知している。
規則正しく彼が寝息を立てるたびに、私の肺が圧迫されて殊更苦しさを増すだけなのだ。

この目覚まし機能だけに留まらず、彼は実は私の命を狙う刺客だったのではないかと思われるような行動を取ることがある。
後ろから羽交い絞めにしてきた時や、キスの時もなかなか離れないし。
いい加減体格の差というものを考えてほしい。

呆れながらいつも通りそんなことを考えていると、彼の腕が私とベッドの間に入り込んできたのがわかった。
やっと起きたか、と、一つ息を吐いたと同時にぎゅう、と強く抱きしめられる。

「ちょ…くるし、い」

さすがに洒落にならんぞ、と慌てて声をかけたら逆に一際腕に力がこもって背骨が軋んだような音がした気がした。
その後すぐに彼から与えられていた苦しさの要因が全て消え去ったので、急激に肺が膨らんだ事による酸素の強襲に気管が耐え切れずに咳き込んでしまう。
落ち着いてきたところでなんとも言い難いしょぼくれた紫頭が目に入る。

これだ。いつもこうなんだ、こいつは。
まるで飼い主に怒られた子犬…いや、大型犬か。それを彷彿とさせる表情を浮かべてこちらを見てくるのだ。
そんな顔をされたら、怒るに怒れないじゃない。

「…ごめんね、なまえちん」
「うー、いいよ。起こしてくれてありがと」

と、結局いつも通り絆されて、彼の頭を撫でる朝の7時。
無頓着なくせにサラサラな髪に少し嫉妬しながら彼の寝癖を整えて頬にキスをする。

前に、敦が言っていたことを思い出した。
"好きすぎて苦しくなる"
"なまえちんが死んだら死体と一緒に暮らす"
それくらい愛してくれるのは嬉しいけど、せめて寿命で死んでからにしてほしいと苦笑しながら彼にそう言ったんだ。

「ねぇなまえちん」

朝食の支度をしている所で、私の服の裾を弱弱しく握りながら敦がぽつりと名前を呼んだ。
なぁに?と彼の手に自らの手を重ね、微笑みながら振り返る。

「…責任、取ってくれる?」
「あはは、何のよ。でも…」

その大きな身体から発せられたとは思えないくらいに小さく、か弱い声がおかしくてくすくすと笑いながら彼に近づいて。
そっと抱きしめてこう言った。

「私が死ぬまで、ずっと一緒にいてもらうからね」

ぎゅう、と、敦には遠く及ばないものの強く抱きしめてみる。
敦が私のことを好きな気持ちと同じくらい、私も彼のことを想っている事実に彼は一体いつ気が付くのかな。


(きみが愛しすぎるから)
(責任とって、一緒に壊れてよ、なまえちん)



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