ベルノ・ファーレンハート/世界が恋をする貴女

「ベルノ、その花って」
「これ? この間ファッションショーに出た時に、楽屋に届いてたの」
 なんて白々しい、その花を送ったのは私だ。ベルノが大きいイベントに出る時は、ほぼ毎回花束やアレンジメントを送っている。
 今回はブーゲンビリア。花言葉がベルノにぴったりだと思ったから。直接思いを伝えることが出来ない私は、こうやって密かに花を送るしかないのだ。
「きっと、この花を送った人は本当に私のことを応援してくれているのね。ねえ、名前」
「……うん」




東海林カズマ/世界で一つだけの願い事

 目の前の女は、空虚な目でそう言った。
「神様のもたらす滅びは、救いなのでしょうか」
 この女は、自分の目の前の存在に語りかけているように見えてその実誰のことも見えていないらしい。強いて言うならば、この器の本来の持ち主と言ったところか。
「私は弱いので、自らの弱さを許容することが出来ないので、何かにすがって生きてよいのならそうやって生きたいのです」
 まるで懺悔だ。我は特に、聖職者という訳ではないのだが。
 残念なことに、この女の望む幸せというものを真に理解する者はいないのだろう。
「ならば、我が不幸を平等に分配してやろう」




安城トコハ/目を閉じて、三秒

 真剣な表情でデッキを調整するトコハちゃん。横から覗いてみるとトコハちゃんの睫毛が長いことがよく分かって、つい魅入ってしまう。
「どうしたの、そんなじっと見て」
「ごめん、集中出来なかった?」
「そういう訳じゃないけど……」
 トコハちゃんはなんだか腑に落ちないような顔をしてたけど、馬鹿正直にトコハちゃんの綺麗な顔を見てましたなんて言える訳がない。
「……名前ちゃん、目瞑って」
「えっ、うん。分かった」
 言われた通りに目を瞑る。顔に何かついてるのかと思ったら、途端に視界が暗くなって。残ったのは瞼に柔らかいものが押し付けられた感覚。
「私ね、名前ちゃんの綺麗な瞳にすっごく憧れてるの」
 本当に、トコハちゃんはずるいんだから。




東海林カズマ/多分上手く笑えていない。

「ルーナちゃんもアムちゃんも、すっごくきらきらしてたなあ」
「ああ。こういうライブを生で見たのは初めてだけど、純粋にすげえって思ったよ」
「私ね、Wing of Imageのイントロが流れた時、ちょっとうるってしちゃった」
 ライブの感想を語るコイツの表情がなんだか少しだけ暗く見えて、素直にライブ後の余韻に浸ることが出来ない。ライブ中は、あんなに楽しそうだったのに。
「なあ、なんでそんな顔してんだよ」
「なんか、変な顔してた?」

 女の醜くて汚い感情は、仕舞っておきたいのに。私は、きらきら輝くあの子のように誰かの希望になることはないのだ。




フランシス・ドレイク/Hope for the best and prepare for the worst.

「こんなところに連れてきて、一体どうしたんだい?」
「私、大人になったんです」
 まだ幼さの残る顔立ちの女は、カクテルの入ったグラスを傾けてそう言った。
「それで? 初めて飲んだ酒の感想は?」
「飲みやすいものと言ったらこれが出てきたんですけど、飲みやすいものでこれなら、私にお酒は向いてないみたいです」
 女は自嘲気味に笑い、頬をかいた。バーカウンターに置かれたグラスの中身は少ししか減っておらず、女の酒の弱さを表していた。
「ねえ、ライダー。私があなたとお酒を飲めるようになるその日まで、待ってて下さいね」




湊友希那/紅蓮

「名前、貴方」
「ごめんね、友希那。本当にごめん」
 全力で走ってきたからか、呼吸を荒くする友希那。息を整える間もなく名前に駆け寄り、ギプスと包帯で痛々しいその腕を掴む。
「ねえ、本当に動かないの?」
「友希那、一応私、病人だから」
「貴方、あの言葉は嘘だったの?」
 そう言う友希那の目は本気だった。Roseliaとして頂点を目指す友希那達を支える。以前、二人はそう約束したのだ。忘れるはずがない。
 それ以外何も見えていないかの如く、友希那は名前を見つめる。いや、実際名前しか見えていなかった。捕まれているその腕がミシミシと音をたてているんじゃないかと錯覚するほどに、その力は強かった。
「嘘じゃないよ」
「そう、ならいいわ。貴女の居場所はここじゃない」
 そう言うと、友希那は一人他のメンバーが待つライブハウスへ向かうのだった。
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