朧月夜-捌-
※軍人臨也×男娼静雄

身に纏う衣服を脱ぎ捨てる間も惜しむように臨也は静雄への口付けを繰り返した。肩を滑り落ちた襦袢は袖口が腕に引っかかったままだが、静雄は別段気にも留めず、臨也から与えられる全てを逃さないとばかりにその背中に腕を回し強くしがみついた。
出会ってから今日まで。離れていた時間全てを取り返すかのように、臨也に求められるまま何度も何度も口付けを交わす。
「ん……ふ、…っ」
甘い。静雄は脳髄がしびれるような感覚の中でぼんやりと思った。
初めて与えられた口付けは、静雄にとって蠱惑的なまでに甘く感じられた。臨也の唇も、吐息も、甘くて甘くて仕方がない。惜しみなく注がれる臨也の唾液は、まるで媚薬のように徐々に静雄の思考を溶かしていく。
自分の中で何かが変わっていくような気がして、静雄は唐突に怖くなる。しかし、どんなに逃げ惑ってみても臨也の熱い舌は執拗に静雄のそれを追いたて、嬲った。絡み、吸い上げ、時折優しく歯を立てられ、息苦しさに顔を逸らせば、人差し指と親指を口に突っ込まれ、逃げ込んだ舌を引きずりだされる。そうしてまた唇を重ね――その繰り返しだ。
「……ん、はぁっ…がっつくなって」
口ではそう非難するが 、静雄は口元に小さく笑みを浮かべていた。散々自分を翻弄し続けてきた臨也の余裕のない表情が可笑しくて、愛しくてたまらなかった。
「まるで初めて廓に来た餓鬼みてぇだな」
少しからかってやろうと底意地の悪い笑みを浮かべて揶揄してやれば、一瞬目を丸くした臨也は唐突に声を上げて笑い出した。
「っはは、あははは!!」
自分の発言に臨也が怒るだろうと踏んでいた静雄としては面白くない。不機嫌そうに眉をしかめ、臨也の顔を睨む。
「……んだよ」
「いや、ごめん。ふふ、シズちゃんの言う通りだ」
ひとしきり笑って満足したのか、臨也はあ、と一息つき静雄の首筋に唇を落とす。
「どうしよう。俺、生まれて初めてかも」
「ん……、何が」
柔肌をちゅ、と吸い上げれば、淡雪のように白い首筋には薄っすらと鬱血の華が咲いた。自らが残したそれを愛しそうに指先でなぞりながら臨也は静雄の耳元でそっと囁く。
「誰かにこんなに欲情してるのが、だよ」
その言葉の示すとおり、間近で見る臨也の目は確かにギラついた色欲に満ちていた。まるで肉食獣が獲物を捕食する瞬間のような、しかしぞくりと背筋が震える程に妖艶な瞳に射抜かれ、静雄は思わず息を呑んだ。
臨也は静雄の首筋にするすると唇を滑らせながら鎖骨に歯を立て、その下で控えめに主張し始めている乳首に甘く吸い付く。
「あっ……ん、」
「……相変わらず、感度良いなぁ」
ちゅうと吸い上げ、つんと尖った先端を舌先でくりくりと転がし。もう片方を指先で押しつぶしてやれば、静雄は感じ入ったように声を上げる。
「そ、な……ことっ…ん、ぅ」
否定しようにも、臨也の愛撫は静雄の快楽を惜しげもなく引き出していく。触れられた箇所からじわじわと広がる熱に、静雄の腰は徐々に揺れ始めた。
「いやらしいね。…腰がうねってる」
「は、ん……っ、見ん、なっ、馬鹿!」
悔し紛れに仰向けだった体をさっとうつ伏せに返すが、臨也はお構いなしとばかりに静雄の背に覆いかぶさり、髪を掻き分けてうなじに甘やかに歯を立てる。舌先で肌の表面をくすぐりながら徐々に身体を移動させていき、背中のくぼみに添ってすべらかな肌にちろちろと舌を這わせると、静雄の背中が大きくしなった。
「へえ、背中も感じるんだ」
にやりと笑い、わざと煽るように口にしてやる。
幾度か肌を重ねてみて臨也も薄々勘付いてはいたが、静雄の体はやはり快楽にとことん弱い性質ようだ。気丈に振舞ってみせたところで、本人の意思とは関係のないところで勝手に火がつく。そして、それに抗う術を静雄自身持ち合わせていないのだろう。
「……っち、げぇよ。…くすぐってぇ」
「嘘ばっかり」
ぐい、っと腹の下に腕を差し込み、ぺたりと布団に伏せていた静雄の身体を持ち上げる。腰だけを高く上げた四つんばいの格好を取らされる形となり、静雄は羞恥から無意識に頬を染めた。
「まるで発情期の猫みたいだ」
「なっ、……ぁッ!」
からかうような口ぶりに思わず抗議の声を上げようとしたが、汗ばんだ掌に勃ち上がりかけていた陰茎を握りこまれ、吐き出しかけた言葉は弱々しい喘ぎ声へと変わってしまった。
「ふふ、もうこんなにとろとろだよ?」
「ひっ…ん、ゃあっ……」
ぎゅう、と布団を握りしめ、腰に走る快楽を散らそうとするも、くちゅくちゅと音を立てて扱かれれば静雄の口からは堪えきれずに喘ぎ声が漏れ始める。ちゅ、と背中の至るところに唇を落としながら、臨也は一心不乱に肉棒を扱き上げた。
「あぁ、ぁっ……んぁ、」
「……可愛い声」
「ひ、ぃっ……に、言って…あぁっん、……ッ!」
熱っぽい声に耳元で囁かれ、静雄の中でいっそう羞恥が高まる。むき出しの背に触れ合う臨也の胸からは早鐘のような鼓動が確かに伝わっているし、耳元にかかる息遣いには明らかに欲情の色が混じっていた。
テメェだって余裕ない癖に――。そう言って鼻で笑ってやりたいが、口を開けば溢れ出すのは甘ったるい喘ぎ声だけだった。悔しいが、臨也の手で、唇で、声で、未だかつてないほどに乱れている自分を、静雄は確かに感じていた。今まで数え切れない程男に抱かれてきたというのに、だ。
好きな相手とすると、こんなに違うものなのか。
静雄はとっさに自分の思考を自分自身で打ち消すべくぶんぶんと首を横に振った。
(何女々しいこと考えてんだ、気持ち悪ィ)
必死に自分自身に毒づいてみても、真っ赤になった耳だけは隠しようもない。静雄の様子に臨也は小さく首をかしげた。





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