DOLLS
※臨←デリ←日々
日々也さんが不憫
ぬるいSM要素有
「デリックさん」
俺が顔を見せた途端、ぱあと目を輝かせる日々也。久しぶり、なんて便宜上の挨拶を適当にかわしてふかふかのソファに腰を沈めた。俺の後に続いて少し遠慮がちに隣に腰を下ろす男の、すらりと鼻筋の通った顔を横目で見やる。
こいつは王子みてぇな格好をしてるくせに本当に優しくて小心者で、どうしてだかいつも俺なんかのご機嫌ばかり伺っているような奴だ。どんなに冷たくあしらっても少し困ったよう笑みを浮かべるだけで、その能天気さがどうしようもなく俺をイラつかせた。
日々也に悪気が無い事は十分承知している。それでも、俺はコイツの事がどうにも好きになれずにいた。折原さんと同じ顔をしたこの男が、心底苦手なのだ。
「しばらくはこちらに居られるんですか?」
「……ああ」
「そう。嬉しいです」
ふんわりと微笑む日々也を見て、苛立ちよりも先に泣き出したい衝動に駆られた俺は、銜えていた煙草のフィルターをきつく噛み締めてそれに耐えた。
あの人はこんな顔、絶対にしない。こんな風に優しく笑いかけてくれたりはしないのに。少なくとも、俺は彼にそんな笑顔を向けられた記憶がない。
(静雄になら……――)
俺ではなくオリジナルの彼に向けてなら。臨也さんはこんな風に無邪気に笑って見せたりもするのだろうか。チクリ、あるはずのない心臓が痛んだ。
「デリックさん……?」
ぼんやりと虚空を見つめていた俺に気付いた日々也は、手にしていたティーポットをそっとテーブルに置いた。おずおずと伸ばされた手が俺の頬を優しくなぞり上げる。
「……っ、」
手袋越しの温もりをとっさに払いのけると、奴は目を丸くして怯えたようにさっと手を引っ込めた。
「俺に……触んな」
あの人と同じ顔で、声で、あの人とは全く違う触り方をしないで欲しい。自分が用済みの玩具だと、自覚してしまいそうになるから。


DOLLS


俺達は人形だ。マスターである臨也さんの心の隙間を埋める為、ただそれだけの為に存在する玩具。サイケや津軽のように歌で特化したアンドロイドも居れば、日々也のように情報処理能力に優れた固体もいた。俺が与えられた機能は、いわゆる夜のお供。セクサロイドとして生み出され、彼の欲望を受け止める為だけに存在している。
臨也さんが想いを寄せる“平和島静雄”という人間を模して作られ、オリジナルにぶつける事ができない想いを吐き出すように、彼は幾度と無く俺を抱いた。どんなに手酷く扱われても、滅多なことでは壊れる事のない俺の体は、きっと彼にとっても都合が良かったのだろう。
「どうして振り向いてくれないの」
「どうして俺の気持ちに気付いてくれないの」
そんな憤りを込めた愛撫は、決して優しくて暖かいものでは無かったけれど、“求められている”という倒錯感と錯覚を俺に与えてくれた。


彼が心の底から求めているのは自分じゃない。オリジナルの彼だ。そんな事は嫌という程分かっていたつもりだ。いつか、自分がこうして用済みになる日が来るのをどこかで予期していたし、きたるべき日がやってきたら、祝福してやるのだとも思っていた。
けれど、現実としてそうなってしまった今。俺は彼の幸せを素直に喜べずにいる。


* * *


「……良いん、ですか?」
俺を組み敷いた状態で、日々也は尚もおろおろと視線をさまよわせている。本当にどうしようもない腰抜けだな、と溜息を吐きつつ、俺は綺麗な黒髪の上にちょこんと乗っかっているお飾りの王冠を取ってやった。こうしてしまえば、本当に臨也さんそっくりなのに。
湧き上がる愛しさと軋む胸の痛みを誤魔化すように、日々也の首筋に縋り付いてほんのりと赤く染まった耳元に唇を寄せる。
「今更何言ってんだよ。…俺とこういう事、したかったんだろ?」
「……そ、れは…」
わざと声を潜めて囁いてやれば、彼はごくりと喉を上下させた。
臨也さんと同じ綺麗に整った顔で熱っぽい瞳に見下ろされ、不覚にもぞくりと背筋が震える。意を決したように薄く開いた唇をそろりと俺のそれに重ね、啄ばむような優しいキスが何度か繰り返された。ちゅ、という可愛らしいリップ音の通り、幼くて純粋なこいつそのものな甘いキス。けど、俺にはそんなキスじゃ足りない。中途半端な刺激は酷くもどかしく感じられた。
「……ん、ッふ……?!」
ゆらゆらと揺れるマントを手繰り寄せ、噛み付くように唇をぶつけて自ら舌を差し込む。ほんの一瞬身体を強張らせた日々也は、そろりと伸ばした舌で俺の口内を漫ろにまさぐった。
頼りなさ気な愛撫に焦れて、誘い込むように舌を絡めながら自身のネクタイを緩める。襟元から抜き取った黒いネクタイを無造作にベッドシーツに落として、きっちりと閉めていたシャツのボタンを一つずつ外していく。目の前に晒されていく俺の白い胸元に、日々也が小さく息を呑むのが分かった。
「んん、はっ……ぁ、デリック、さ…」
「っ、……なぁ、もっと激しくしてくれよ」
熱に潤んだ琥珀色の瞳を覗き込み、固く握りしめられた手を取ってシャツの襟元から忍び込ませるように誘導してやる。少し汗ばんだ肌を滑る手袋の感触がぞくぞくと性感を煽った。
「俺Mだから、その方が感じんだよ」
酷くして欲しい。あの人のように、壊れるぐらいに滅茶苦茶に抱いて欲しい。
そんな本心は告げず、挑発的に笑ってみせると、日々也は戸惑ったように目を伏せた。か細い声で「分かりました」とだけ言って、俺の身体をベッドのシーツに押し沈める。その指先は、かすかに震えていた。





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