10月31日:一生に一度だけの魔法(ADV:鹿と蟹のハロウィン)
「悪戯かお菓子か。どっちか好きな方を選びやがれ蟹」
悪魔だ。
悪魔が目の前にいる。
正しくは鹿だけど。
でも怖い。目をガッシリ掴まれて異常な程に接近したサンダーフーフの鋭く吊り上がった真っ赤なオプティックがクランプダウンを睨み付けていた。
「あ……あう……えっと、その…」
ガタガタ震え始めたクランプダウンは泣きそうになりながらも必死に返事をしようと踏ん張るが、いかんせんまともな言葉が出て来ない。
サンダーフーフは睨み付けたまま怒鳴らず、また蹴りも殴りもしなかった。
ただじっと不気味なほどに自分の返事を待っているようだった。
あの短気な彼が珍しい。
(でもやっぱりーー怖いもんは怖いっちゃ!!えーとお菓子か悪戯っつった?悪戯は怖いから……お菓子、お菓子……ーーあ!あった!そう言えば今朝フラクチャーのマイクロンに貰った飴持ってたんだった!!)
まさに天の助け。
クランプダウンはマイクロン達に心の底から感謝した。今度会ったら手土産持って礼を言おうと思いつつ、慌てて貰った飴をサンダーフーフに差し出した。
差し出されたサンダーフーフは予想外だったのがギョッとした顔で受け取る。
「テメェ、飴なんか持ってたのかよ?」
「た、たまたまな!貰いもんだけど、それ、あげるから悪戯は勘弁してくれよ?」
「……………チッ」
(今ものすごーく不満そうな顔で舌打ちしやがった…!)
盛大に舌打ちするサンダーフーフだったが、それでも悪戯(という名の折檻)をする気は起きないようだ。
飴を握り締めると足を踏み鳴らしながら基地の中へと入ってゆく。
残されたクランプダウンはポカーンとした顔で見送るしかなく。
「…何なんだよあいつぅ…訳わかんねーちゃっ…あーあ、せっかくマイクロン達から貰った飴が。悪戯よりマシだけどちょっと勿体なかったなぁ〜」
でも、とクランプダウンは不思議に思う。人間の行事なぞあのサンダーフーフが好き好んでやりたがるとは思えないが、今日は一体どうしたのだろうか。
(どーせ意地悪したくなったんだろーけど…)
まあ、いいか。
疲れたように排気してクランプダウンも基地へと帰って行った。
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