TFAの森 | ナノ





2.波乱の就任式(ププとその他大勢)



新村長が決まったとの噂はあっと言う間に村中に伝わった。

「センチネル、新しい村長の噂は知っているかい?何でも私達とそう変わらない歳らしいよ。どんな人だろう?楽しみだなぁ」
「あぁ?何で選挙も無しに決まったんだよ!次こそ俺様が立候補してやろうと思ったのによ!」

つい先日前村長のウルトラマグナスが突然隠居したのを聞いて、次こそはこの自分が新たな村長になってやる!と意気込んでいたのに何処の馬の骨ともつかない奴がいきなり村長?
何だそれは。職権乱用じゃねーか!そう喚き散らすセンチネルをジャズは苦笑しつつまあまあと宥める。

「でもとても好青年らしいよ?彼が良い人で歳が近いなら、友人になれるかもしれないじゃないか」
「お前、本当に呑気だよなぁ…明日が就任式だって?ふん!だったらそいつの面をしっかりと拝んでやる。もしも村長に相応しくない奴なら俺様が引きずり下ろしてやるからな!」
「怖いねぇ…」

センチネルはボキボキと拳を鳴らしてまだ見ぬ新村長へ吠えまくる。
ジャズは呆れながらも、どうか明日の就任式が無事に終わりますように…とプライマスに祈った。



翌朝、快晴。
朝9時に広場にて新村長就任式が行われると聞いた住人達が、新しい村長を一目見ようと集まっていた。
もちろんジャズやセンチネルも住人の先頭に立って今か今かと待ち構えている。

「もうすぐ始まるな」
「ふん。どんな奴なんだか。勿体ぶらずにさっさと姿見せやがれってんだ」

腕組みしつつボヤくセンチネルにジャズは苦笑する。
周囲を見渡すと、ほぼ全村民が集まっているようだった。見知った住人がそわそわした様子で演説台を見つめている。
無理も無い。前の村長だったウルトラマグナスが熱心に推薦した若い村長が気になって仕方ないのだろう。
ふとジャズが時計を見ると時刻は9時丁度。
さあいよいよだ。
まずはマイクを持ったクリフが登場して定型的な挨拶を述べた後、背後から新村長らしき人物が遂に住人達の前に姿を現した。
彼は少し恥ずかしそうに会釈してから演説台に立つ。

「わ、若っ」
「本当に俺らと変わらねぇんだな…」

センチネルとジャズは呆然となった。噂には聞いていたが、まさか同い年ぐらいだとは。
しかし物腰が穏やかそうでなかやかの好青年である。初対面だが、機会があればぜひ彼と仲良くなりたいな…とジャズは願った。
一方、センチネルは困惑していた。
若くして村長になった奴なんか、どうせウルトラマグナスに贈賄したに違いない。卑怯者の面の皮を引っぺがしてやるなどと意気込んでいたが、予想外にも好青年な人物に些か拍子抜けしてしまった。
誠実そうな雰囲気や凛とした佇まいがそう思わせる。
何よりも彼の朗らかな笑顔があまりにもー妙な話だが、いいのだ。気分が落ち着くと言うか。

(な、何なんだこの気持ち…)

奇妙な感覚に動揺を隠せない。
ふとセンチネルは彼と視線が合った。
澄んだ碧色に見つめられ、スパークがドキリとした。
訳の分からない気持ちに我ながら引き攣った顔を浮かべたと思う。それにも関わらず彼はにこやかな微笑みを返したのだ。
その瞬間、鬱屈した感情はサイダーの泡のように弾けて消えた。代わりに浮かぶのは熱。
とにかく、胸が熱かった。

『住人の皆さん、初めまして。この度村長を就任することになりました、オプティマス・プライムです』

男だが涼しく綺麗な声だ。センチネルはぼんやりした頭で演説を聞いていた。
オプティマスはこれからこの村をどう発展させるか。また村長として住人達とたくさん触れ合いたいなど語っていく。

『最後になりますが、何か質問はありますか?』

演説が終わる頃、オプティマスは住人達に向かって質問はないかと尋ねた。途端に次々と挙手が上がる。あのセンチネルまでも上げているのを見たジャズは面食らった。
まさか一斉に挙手されるとは思っていなかったオプティマスは、誰を当てようか迷いつつもふと力強く手を上げているセンチネルを見付けて視線を向けた。

『じゃあ…貴方で…ええと…』
「センチネルだ」
『じゃあ、センチネルさん。質問をどうぞ』

うぐっ。真っ直ぐ見つめられ、センチネルは言葉に詰まる。そもそもこれと言った質問がある訳でも無い。ただ何故か挙手してしまっただけなのだ。
あの澄んだ碧色に見つめられたくて。初対面なのにおかしいだろう自分…

『センチネルさん?』
「いや、あのその…」

挙動不審なセンチネルを不思議そうに見つめるオプティマス。気が付けば周りの住人達がセンチネルに注目していた。
そんな恥ずかしさもプラスして頭の中は真っ白になる。

(まずい、早く何か聞け俺!)

「えーとえーと、こ、…恋人はいるのか!?」
『えっ…恋人?』

シーン…となる広場。
何とも気まずい空気が広場を包む。

(いくらなんでも直球過ぎだよセンチネル…)

ジャズは生温かい目で真っ白になっている友人を見つめる。
しまった、とセンチネルは硬直した。
よりによってなんつー質問を…小学生か俺は…ああたぶん、いや絶対引かれてる…終わった…などと灰になりかけていた時、クスクスと笑う声がまるで天使の声に聞こえた。

『恋人はまだいないよ』
「えっ…」
『情けないが、ずっと独り身でね。はははっ…』

頬を掻きつつ苦笑するオプティマスの笑顔が、何故だろう。眩し過ぎて直視出来ない。
ああしかもよく見れば端正な顔だ。腰もやけに細いし、物腰柔らかいしハッキリ言って好みど真ん中なんですが。ボーッとしているセンチネルにジャズが若干呆れながら思い出すように口を開く。

「…彼に文句を言うんじゃなかったのかい?」
「んなもんどーでもよくなった。なぁジャズ、あいつ…オプティマスの住所分かるか?」
「そんな事聞いてどうするつもりなんだ?」
「そ、そりゃあほら!村長ったってこの村来たばかりだし、 釣りの仕方とか畑の耕し方とか分からないだろうから教えてやってもいいかなーって…」

顔を赤くしてそんな事を言う友人にジャズは驚いた。まさか、これは。この俺様な男がひょっとしてオプティマスに一目惚れしたのか?
もっと突っ込んでやろうとしたその時、広場の入り口が騒ついた。

「何だ?」

振り返ったセンチネルとジャズはギョッとする。
白銀の巨体と付き添いの巨体二人が悠然たる面持ちで入り口に立っているではないか。

「あれは…隣村の村長メガトロンじゃねーか!何でこんな所に!」
「おそらく新村長をお祝いしに来たんじゃないかな?ほら、花束抱えてるし」

ジャズの言う通りメガトロンは色鮮やかな花束をしっかりと腕に抱えていた。
困惑する住人を余所にメガトロンは新村長の元へ颯爽と歩いて行く。
そして壇上に上がるとオプティマスに花束を差し出した。

「え、あ、あの。貴方がその…」
「我は隣村の村長メガトロンだ。今日に就任式があると聞いたのでな。ディセプ村村長として就任を祝いに来てやったのよ。村長就任おめでとうオプティマスプライム」
「あ、ありがとうございます」

戸惑いつつも花束を受け取るオプティマス。
その後メガトロンはぐるりと周囲を見渡すと、いるはずの人物が居ない事に気付いた。

「ウルトラマグナスはいないのか」
「…前村長は村長を退任されてすぐに南の島に隠居されましたので本日は来ておりません」

メガトロンの疑問にクリフが無愛想な顔で答える。

「ほう?では遠慮無く挨拶が出来る訳だ。オプティマスよ、隣村同士仲良くしようではないか。よろしくな」

すっと右手を差し出され、友好の握手を交わすのだと思ったオプティマスは慌てて自分の右手を差し出すが、メガトロンは何を思ったのか右手を掴んで引き寄せると、手の甲にキスをした。
固まるオプティマス。それを見た住人達から悲鳴が上がり、さらに怒り狂ったセンチネルをジャズが必死で止めていた。

「あああのっ…!?」
「事業について何か相談事があれば遠慮無く言え。力になってやる。ではさらばだ」

メガトロンは不敵に笑うとようやく右手を離した。
そして何故か優しい仕草でオプティマスの唇に軽く触れ、頬を撫でおろす。
オプティマスは絶句したまま体が動かない。

(どうしてこんな真似を?)

彼の真意を聞きたかったが、その前にメガトロンは笑みを浮かべたまま広場を歩き去ってしまった。じっと見送るオプティマスの腕の中で鮮やかな花束が揺れていた。



夕方を迎える時刻になった。
色々あったが、無事に就任式が終わって役場の村長席でオプティマスは一息ついていた。

「今日一日お疲れ様でした。お茶をどうぞ」

そこへクリフが淹れたてのお茶を差し出して一日の労をねぎらう。

「ああ、ありがとう。…なぁクリフ。あのメガトロンなんだけど」
「…村長はメガトロンをご存知ですか?」
「噂は聞いていたが、会ったのは今日が初めてなんだ」
「なるほど」

クリフはやれやれと排気した。

「ご存知だとは思いますが、メガトロンは隣村…ディセプ村の村長です。ディセプ村は田舎のオトボ村と違って急速に発展している村でしてね。噂だと映画館や遊園地があるらしいですよ。今度水族館も出来るとか」
「へぇ〜ちょっと行って見たいなぁ。オトボ村にはコンビニも無いからなぁ」
「隣村には電車に乗ればすぐ行けますよ。それと村にも一応商店街はありますから、明日案内します」
「ありがとう。楽しみが増えたよ」

礼を言うオプティマスは、ふとクリフが真顔で見つめて来るのに気が付く。

「クリフ?」
「最後に忠告ですが、あのメガトロンにはくれぐれも気を付けて下さい」
「え?」

クリフのただならぬ雰囲気にオプティマスは気圧される。

「そんなに危険人物には見えないが…どこかヤバイのかい?」
「あいつはしつこい男なんですよ!とにかく夜はしっかりと鍵を掛けて寝て下さい。あと何かあったら直ぐに電話して下さいね。血祭りにしますから!」
「ち、血祭りってそんな大袈裟な…」
「俺は真剣に言っています!と、に、か、く!守ってくださいね村長!!」
「わ、分かったよクリフ…」

拳を握り締めがら熱弁するクリフの迫力にちょっと引きながらもオプティマスは頷いた。
それを見て満足そうに排気したクリフが、急に何かを思い出したように声を上げた。

「なんだい?」
「そうそう、すっかり忘れていましたがこれはウルトラマグナスからの餞別です。どうぞ」

そう言ってクリフが取り出したのは大振りの両手斧だった。
まさか斧を渡されるとは思っていなかったオプティマスは呆気に取られながらも素直に受け取る。

「あ、ありがとう…これはどうすれば?」
「それで村中にある不要な木を伐採して下さい。広くなった土地は花畑にするか、公共事業で新しい建物を建てたりするかは村長の判断に任せます。あ、それから……不審者が出た時は、それでバッサリと真っ二つに」
「え、えええ!?」
「冗談ですよ」

ニヤリと笑うクリフが少し怖かった。
何はともあれ、こうして最初の仕事を無事終わる事が出来たオプティマスはホッとした。

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