TF 100題 | ナノ





0063:重ねてみて悪くないと思った(TF4ヘアリー独白)



満点の星空の下。

広大なアメリカ大陸の片隅にある田舎町のその片隅に、その小さな家と研究所はある。
絢爛豪華な宮殿でもない。はたまた故郷の大都市に聳え立つような金属の摩天楼でもない。それらに比べればいっそ憐れに思う程の小さな、家畜が住むような住処だ。なんと矮小な人間にふさわしいのか。故郷が滅びだとは言え、かつては高度な文明によって銀河系を支配した我ら種族の落ちぶれようは一体何なのだ?
正義だの悪だの。今となってはただの死語だろう。まさしく我々は戦う為に生まれて来たのだ。何処から?誰に?それを知る為に、司令官は宇宙の彼方へ旅に出た。
何と共も付けずにたった一人で、だ。
呆れる以外どうしろと。
クロスヘアーズはぼんやりと星空を見上げた。光の到達速度の関係で、今見ている星の光は過去の光だ。
つまり、もしもそれが100億年にどこからか放たれた光ならば、光の速度で100億年経ってからようやく地球に届いた光を今見ているわけだ。

(てことは司令官。あんた自身だって言う星の光は過去の光って訳か?)

司令官は星になったのか?
…まあ小難しい事はよく分からない。更に言えばあまり深く考えないようにしている。
例えば本当に神様はいるのか?などだ。
そう言ったものについては自動的に思考回路が止まるようになっている。クロスヘアーズだけではない。特に理由は無い。存在を証明出来ないならば考える事に意味が無いからだ。仮に答えがあったとしてもそれがどうした?
少なくともクロスヘアーズにとっては意味が無いし興味も無い。
…ああ、そうだ。興味が有るならたぶん今目の前にある。
不思議な音色で歌を歌うケイドの存在だ。
そして今いるこのちっぽけな家と研究所。
それ以外何も無い。
何にも、無い。
ただここには平穏と安らぎがあるだけだ。
そして考える時間も。
ほんの少し前。胡座をかいて頬杖をついたクロスヘアーズがボーッと眺めていると、皆で焚き火を囲いながら、ふとケイドが古びたギターを取り出して草むらに座った。
「それは何だ?」と興味深い顔でハウンドが尋ねると、ケイドは不敵に笑って言った。

「俺の魂さ」

ポカンとするオートボット達に構わずケイドは歌い出す。
フォークソングやカントリーソング。はたまた聞いたことも無いラブソングを、夢中になってギターを掻き鳴らしながらケイドは歌い続ける。
歌なんて何の役に立つ。それで人間の罪が許されるとも?クロスヘアーズは馬鹿馬鹿しくなって内心ケイドを嘲笑うが、ふと周りを見渡すと意外にも皆真面目な顔で聴いているのに気付いて驚いた。

(…馬鹿馬鹿しいな。ああ、本当に馬鹿馬鹿しい)

クロスヘアーズは心底そう思いながら星空を見上げようとしてーーどこからか、酷く冷たい風が頬を撫でて微かに震えた。
同時に闇が深くなった気がして思わず俯いた。これから我々はどうなるのか。人間への憎悪、ケイド達への愛情。その何もかもがごちゃ混ぜになってクロスヘアーズを蝕んでゆく。
暗い未来しか考えられないクロスヘアーズが歌声を聴いて再び顔を上げた。
原始的な焚き火を囲む仲間達が、いつの間にかケイドに合わせて歌っている。
下手くそだが、どこか懐かしい歌だ。
どこで聴いたか、はて思い出せない。記憶回路のその奥深くまで遠き遠き日々の過去を掘り返そうとしたがーーすぐに止めた。
クロスヘアーズは排気する。

(馬鹿馬鹿しいが、まあ悪くはない)

爆ぜる火花。風に消えまいと揺らめく炎の熱が、冷えたスパークを温めていることにクロスヘアーズはようやく気付いた。

(終)

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