TFA短編 | ナノ

ちょっぴり病んでるププの話

粉々に割れたガラスのコップはもう二度と元に戻らない。
私達も同じだ。その通りになってしまったんだよ。
だから昔のように笑い合えるなんて思うな。

…そうでなければ虚しいだろう?





「たかが辺境のお掃除プライムが、エリートガードのこの俺に意見する気か?」

いつものように上から目線な態度のセンチネルからの通信を直立で受けている間は、はっきり言って苦痛以外の何物でもない。
始まりは何だったろう。最初は単なる作業進行の報告のみのはずだったのに、いつの間にかセンチネルの独壇場になってしまった。
やれ気に入らない奴がいるだの、最近どうしているんだだのと、およそ任務には関係の無い私的な話題ばかりベラベラとまあよく喋る。
オプティマスは半ばウンザリしながら黙って聞いていた。
相手がエリートガード将校である以上、格下の自分から通信を切るわけにもいかず、ただセンチネルが満足するまで聞きたくもない話を聞かなければならない苦行の時間。
(頼むから早く終わってくれ…)
あーあ。まだ作業も掃除も終わっていないのに。
無駄なお喋りに付き合う暇があるならさっさと仕事に戻りたい。
ーーと、言えたらなぁ。
センチネルも物好きな男だ。あれほど嫌っている自分にわざわざくだらない通信を寄越すほど最近のエリートガードは暇なのだろうか?
肝心のウルトラマグナス司令官は何をしているのだろう。 センチネルの奇行を知っているのだろうか。
(いやたぶん知らないのだろうな。あの方は無駄なことはしない。知る必要性のない情報など何の価値も無いのだから当然だ)
そう、知るだけ無駄だ。価値の無い自分など総司令官が一々気に留めるはずもない。
それならそれでいい。大した役割を与えられずに辺境の惑星でヒッソリと暮らすのもー仲間達には反発されるだろうがーこれはこれで悪くない。
決して目立ちたい訳じゃない。
出世欲などとうに捨てた罪人の身である自分がこれ以上何を望むというのか。
オプティマスは無意識に口の橋を歪める。
センチネルのくだらない話はまだまだ終わりそうにない。このままだとあと1時間は付き合わなければならないだろう。苦痛だが、センチネルは元友人だ。もう友人ではないから適当に聞き流す。
ああ、外は満月だ。深夜に一人で散歩でもすれば少しは気が紛れるだろう。
早く終わってくれ。君の声をこれ以上聞きたくもない。
「…オプティマス?」
ーーどこか違和感を覚えたのか、画面の向こうで訝しむ表情が見えた。
「おい、人の話を聞いてるのか?」
「ああ、ちゃんと聞いてーー」

もう友人ではないと言ったのは君の方だろう。
どうせ君は私が嫌いなんだろう。
なのになぜわざわざこんな真似を?

「ないよ」
「なっ…んだと?」
「本当は迷惑だった。嫌いだった。君と話すのは苦痛で退屈なんだ。君がエリートガードでなければ即ブロックしているのに」
「お、オプティマス…?」
センチネルが酷く動揺しているのがよく分かる。
これで逆ギレすれば彼らしいのだが、意外にもオロオロと狼狽えるばかりで怒鳴ろうとはしない。
(どうした。普段あれだけ私を罵っている癖に)
そんな態度を見せられると、まるで長年の親友に絶好されているみたいで勘違いしそうになるがもうそんな間柄ではないのだ。
(私からの拒絶が想定外だっとでも言うのか。まさかセンチネルに限ってそんなはずはない。ああでも上官侮辱罪で何らかのお咎めがあるかもしれないな…少し言いすぎたかもしれない)
オプティマスは内心舌打ちしながらどこか泣きそうな顔を浮かべている上官に対して敬礼する。
「…サーセンチネル失礼致しました。先ほどの無礼をお許しください。私からの報告は先ほど述べた通りです。これから作業に戻りますので通信を切ります。以上、通信終わり」
「!おい待っー」
追い縋るセンチネルの言葉を最後まで聞かずに強引に通信を切った。
「…待たないよ。もう疲れた」
オプティマスは苦笑した。
これでいいではないか。これで…
チクリとスパークに刺さる痛みはたぶん感情回路のバグだ。
(私には価値が無い)
正しく言うなら資格と言うべきか。
キラキラと輝くステージに立つセンチネルを想像する。その中でウルトラマグナスの傍に使える彼を見据えた。その隣に立つのは自分ではないエリートガードの誰かーーー
「悲しいのは私なんだな」
我ながら未練がましい。もう二度と叶わない未来を思い浮かべて勝手に悲しんでいた情けない自分がつくづく嫌になる。
無駄なら最初から何も望まなければいい。そうすれば辛くない。賢い生き方だ。
「君もそうだろう、センチネル?」
さて報告は終わった。余った時間は散歩にでも費やせばいい。アテもなくブラブラするのもたまにはいい。
何せ辺境のお掃除部隊、時間はたっぷりある。

一人はいい。何もかも自由だ。

…私は自由なんだ。



prev
next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -