TFAラストエンゲージ | ナノ

ラストエンゲージ8(終わりよければ全てよし)

事態は訳が分からないままに突然現れては突然終わってしまったのだと、火中のオプティマスは意識が回復した直後にぼんやりと実感していた。
ゼータプライムとストラクサスが反逆罪でエリートガードに逮捕され、さらにはメガトロンとオプティマスの結婚をオートボット側が正式に認めたとウルトラマグナスとセンチネルが口惜しげに唇を噛み締めながら告げられていっそ考えることすら放棄したくなった。
本当に、ため息しか口から溢れない。

「オプティマス、ため息ばかりついては幸せが逃げるぞ?」
「つきたくもなるさ…ここ最近、色々なことが起こり過ぎたから」
「ふん。だがこれで和平反対派はしばらく大人しくなるだろう。この後におよんでお前に手を出そうとする輩は、我が容赦なくあの世に葬ってくれるから何も心配せずに寝ておれ」
「や、いきなり葬るのはマズイ気がするんだが…」
「我よりもウルトラマグナスに言え」

メガトロンは真顔で言う。理性を失ったウルトラマグナスを見た事があるオプティマスは閉口するしかない。

「ははは…あ、なぁメガトロン」
「うん?」
「もう3日も私に付き添っているけど、仕事は大丈夫なのか?」
「心配いらん。我には優秀な新・副官が付いておる」
「…彼女が副官になったと聞いた時は、さすがに驚いたよ」

ブラックアラクニア。
エリータワン。かつての友人。美しくも聡明で優しい彼女を絶望の淵に落としたのは他ならぬ自分。
次第に表情が曇り始めたオプティマスを見下ろすメガトロンは、やれやれまたかと苦笑しながらオプティマスの顔に右手を下ろして覆った。
オプティマスは突然暗くなった視界にわっと驚いた声を上げる。

「…アラクニアが言っていたぞ。オプティマスの事はもう恨んでいないとな」
「…え…だが、私はあの時彼女をっ」
「確かにあれは不幸な事故だ。事故、だったのだ。お前が故意でしでかした事ではない。アラクニアはもう自身の中で決着をつけた。だからもうオプティマスがいつまでも自責の念に苦しむ必要はないと、あやつが言っておったぞ」
「…エリータ…」

君は私を許してくれるのか。
何もできなかったこの私を。
後悔の波が押し寄せる。次第に肩が震え始め、小さな嗚咽が部屋に響く。
メガトロンは無言でただ側に寄り添っていた。
下手な慰めなど何になる。この男はその誠実さゆえにアラクニアの憎しみから解放されたのだ。
そしてそれはアラクニア自身にも言える。

「ところで奴の体の話だがな。どうやら元に戻れる方法が見つかったらしい」
「えっ!?それは本当なのか!」
「ああ。オールスパークの力でアラクニア自身の体から有機生命体の部分を完全に切り離す……ええい、小難しい話はパーセプターとやらに聞け。ともかくだ、これ以上罪の意識を感じる必要は無いと言うことだ!しかも我が副官など破格の大出世だぞ?無論給料も待遇も破格の勝ち組だ。納得したならもう泣きやめい!」
「は、はは…メガトロン、お前はいつも私にはできないことをやってのけるんだな…でも、よかった…」
「オプティマス」
「ありがとう、メガトロン」
「礼なら我にキスをしろ」
「ふふ…分かったよ」

オプティマスは笑いながら身を起こしてメガトロンの首に腕を回し、そっと側へ引き寄せる。
メガトロンの大きな手が細腰に回る。オプティマスはじっと赤いオプティックを見上げながらゆっくりと唇を寄せーー
後少しで触れる、時だった。
猛烈な吐き気に襲われた。

「…うっ」
「オプティマス?」

気持ち悪い。頭がぐるぐる回る。二日酔いにも似た酩酊感が全身に襲い掛かって、ひますら気持ち悪かった。
余りの気持ち悪さに訝しげなメガトロンの声に答える余裕がない。

「ど、どうした?大丈夫か?」
「め、めがとろん……」
「腹が痛いのか?」
「…ぎもぢわるい…」
「何?」

急に口を押さえて苦しみ始めた伴侶を見て不安になったメガトロンが、優しく背中を撫で始める。
その気持ちは大変ありがたいが、やはり猛烈な気持ち悪さは治らないどころか益々酷くなるばかり。
そして遂に耐え切れず決壊してしまった。

「具合が悪いなら今すぐラチェットを呼び出すーー「ヴェェェェー」ニャアアアアーー!?」

哀れ、メガトロンは崩壊したダムの如く吐き出された吐瀉物を下半身に喰らうのであった。



その後。
メガトロンに呼びつけられたラチェットは嫌な顔1つせず(オプティマスのみ)ベッドで苦しそうにうんうん唸っているオプティマスの診察を行っていた。
しばらくの間腹部に手を当てて思考していたが、どうやらそれも終わったらしい。
ラチェットは溜め息をつきながら腹部から手を退けると黙々と器具を片付け始める。
何も言わない老医者に痺れを切らしたメガトロンが詰め寄った。

「おい。何を黙っているのだ。オプティマスは大丈夫なのか?」
「ふん。いちいちやかましい奴じゃ。まあ診た限りオプティマスは悪阻が来始めたからぽかっと吐いたのじゃろ。安定期まで辛いじゃろが、いっとっ安静にした方がよか」
「そ、そうか。悪阻か…」

安堵するメガトロンをラチェットは横目で睨み付ける。

「じゃどん安心するな。重い悪阻は妊婦にとったら地獄の苦しみやっど。無理をさして益々酷くなったらエネルゴンを受け付けずに吐きまくって最悪の場合は緊急入院じゃっで。オプティマスが大事なら絶対に無理をさせんこった。気をつけろ」
「…肝に命じておこう」
「ふん。ならおいはこれで帰っとよ。オプティマスの顔も見れたし、また回診に来るからな」
「感謝する」
「じゃあの」

ヒラヒラと手を振ってラチェットは去って行った。
以前に会った時はオプティマスとの婚姻を猛反対された事もあり、何がしら文句を言われるかと思っていたが、医者としての矜持を優先したのだれう。
何よりも先にオプティマスの容体を診たラチェットに対して、メガトロンは改めて感謝すると同時に、己が犯した過去の業を思うと慚愧の念が湧き上がる。

(いずれは全ての罪を償わなくてはならぬ。その時は我は迷う事なく裁きを受けるつもりだが、子を宿したオプティマスを一人にしてはおけぬ。……身勝手だな…我は。だが、今は)

ふと眠り続けるオプティマスの顔を見た。
苦しげだが、どこか幸せそうな笑みも浮かべている。
それだけで救われる気がした。

「我のオプティマスよ。願わくば永遠に共にあり続けてくれ」

一部隊長のお前こそが全てに希望をもたらしたのだと、そう告げる日は近い。
何かを求めるように動く指にメガトロンは起こさぬようにそっと己の指を絡めた。
絡み合う二人の指にはめられたリングが優しく輝く。

輝きと共に未来は続いていく。

(終)


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