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どんなに想っても想い足りない

ディセプティコンの移民プロジェクトを知ったオートボット側は、当初はあまりにも荒唐無稽な内容に半信半疑であったものの、どうやらメガトロンが本気で計画を実行しようとしていると知った時の衝撃は大きかった。
この件について世間の評価は概ね二分される。
まず、ディセプティコンを快く思わない連中は心から安堵した。
別に奴らがこの星から消えたからと言っても自分達には何の関係も無い。むしろ野蛮な連中が居なくなれば身の安全が保障される。それの何が問題だと高らかに主張した。
もう一つは移民に対して否定的な意見を持つ者達だった。意外にもオートボットの中にディセプティコン移民反対派が存在したのである。
本当にこのままでいいのか。ディセプティコンが居なくなれば本当に争いが無くなるのか?オートボットの中からまた新たな不満分子が生まれ、歪みが生じない可能性を誰が否定できるだろう。
結局は同じ事を繰り返すのではないのか。
メガトロンと口論した後も、ウルトラマグナスはサイバトロン星の未来を自問し続けていた。

「私は」
「私は永遠など信じていない。この宇宙は有限である以上、我々も不変ではないという事だ。だから変化を受け入れなければならない。生命体を自負するのであれば」
「懐かしいですね。貴方の講義を聞いていた時によくそんな話を聞かされました」

ウルトラマグナスは肩を竦めた。目の前に柔らかな笑みを浮かべる青年は、今や新たな生命を産み、大切に育んでいる。
彼は時折布に包まれながら淡い光を放つ卵を優しく撫でていた。
手の平よりやや大きなその卵はウルトラマグナスですら初めて見る代物だった。プロトフォームラボからではなく、その硬い殻の中に新たなスパークが宿っているのだと思うと神秘的ですらある。
ウルトラマグナスはそんな光景をどこか眩しそうな眼差しで見つめていた。

「他愛ない哲学だよ。私の講義は出席しなければ単位が取れなかったのだから、当時学生だった君はつまらなかっただろう?」
「まさか。貴方の講義はいつも楽しみにしていましたよ。いつも次の講義が待ちきれなかった。センチネルなんて起きたふりをしながら器用に寝ていて、エリータは眠気を抑えるためにひたすらペン先を腕に刺していて……」

ふふっと当時を思い出してオプティマスは笑った。
あの頃は幸せだった。未来は希望に満ち溢れていて毎日が楽しかった。輝いていた。
その無垢な笑顔にウルトラマグナスの罪悪感は底無しの汚泥のように深まってゆく。
なぜ彼はこうも笑っていられるのだろう。ウルトラマグナスは慄いた。この青年はもう、本当に過去を振り返らないつもりなのだ。今この時も彼にとっては過去になり、それからもう二度とーーー
そこまで考えて、何かが音を立てて切れた。
ウルトラマグナスは顔を覆う。彼に泣いている無様な顔を見られたくなかった。

「私は今も後悔している。君を……アカデミーから追放するべきではなかった。すまない…センチネルの言い分のみを聞くべきではなかった。君を失った事がオートボット最大の損失だ。私は君を辺境の小惑星に島流しにした…そのまま何もせずに長い間君を」
「それは違います。貴方の立場上、あの時はああするしかなかった。貴方の判断は何も間違っていません。そのおかげで得たものもたくさんありました。逆に感謝しています…だから顔を上げてください」
「オプティマス…」
「私は明日メガトロンと共にこの星を発ちます」
「………そうか」

分かっていたことなのに、未練がましい。
募る気持ちを噛み殺しつつもウルトラマグナスはオプティマスの手の甲にそっと触れた。
卵の熱が伝わる。
温かな生命の熱だ。
ふとウルトラマグナスはオプティマスの肩を見る。肩に描かれているマークは 紫色だった。
ウルトラマグナスは込み上げる何かを抑え切れなくなった。
卵に振動を与えないよう、優しくオプティマスを抱き締める。

「もう君と会えないのだろうか。他に道は無いのか…?」
「メガトロンが二度とオートボットと接触しないと決めた以上は…」
「……いや。君がどこにいようと必ず探し出す。今は大人しく旅立ちを見守るが、いつか必ず仲間達と共に会いに行く。皆もそう望んでいるはずだ」
「う、ウルトラマグナス……っ…私は…」

ウルトラマグナスの心情を聞いたオプティマスは堪え切れず嗚咽を漏らす。
情けないな、とオプティマスは自嘲する。
先ほど仲間達と別れを交わした時は泣かなかったのに、この人の前ではまるで無意味だった。
ふいに顎に指が掛けられる。
驚いて顔を上げた瞬間、目の前が真っ暗になった。
唇に重ねられた熱はすぐに離れると、申し訳なさそうにウルトラマグナスが苦笑している顔が見えた。

「信じてもらえ無いかもしれないが、私は君が好きだった…」

何もかもが遅過ぎた。大切なものはこの手から去って行く。自分は追うことさえ許されないなら、今の内に伝えておきたかった。
オプティマスは驚いた表情を浮かべたまま何も言わなかった。
次第に赤くなる顔を隠すようにウルトラマグナスの肩にもたれかかる。
ウルトラマグナスも何も言わずにただ抱き締めた。

「…忘れてくれ」
「ふ、ふふ。お断りします。今の言葉は私だけの秘密にして持って行きますから」

悪戯っぽく笑う彼に愛おしさが込み上げる。
明日が移民船団の出航日だ。せめて彼らを笑顔で見送ることがマグナスとしての最後の仕事ではないだろうか。







「んんん〜?明日がいよいよ我らディセップの旅立ちなんだけどよぉ。なぁアイシー、本気でメガトロン様はこの星を諦めるつもりなのかよ?」

うんざり顔のスタースクリームがタブレットをピラピラ振り回しながらボヤいている。
それを横目で見るブリッツウィング(アイシー)はまたか…などと排気した。

「今さらですよスタースクリーム。全てはメガトロン様の一存で決められることですから、我々のような部下はただ従えばいいんです。はい、出戻りは黙ってキビキビ働く働く」
「なっ…てめ、めでたく副官復帰した俺に対してちょっと冷た過ぎんじゃね?」
「むしろ私は貴方がメガトロン様にブチ殺されなかったのが奇跡だと思いますよ?どこまでも寛大なメガトロン様を心から尊敬します。私なら間違いなく全殺しですよ」
「怖っ!?さらっと恐ろしい事を言うなその顔で!………まあアホな話はさておいてだ。この移民リストだけどよ、やっぱりっつーかメガトロン様に付いていくディセップの数が当初の予定より半分にも満たねーんだよな。加えて離反する奴らもチラホラで始めやがって、噂じゃあ反メガトロン派の勢力が集まりつつあるんだと」
「まあ…メガトロン様も覚悟されていた事案でしょいねぇ」

そう言う貴方も裏切りの筆頭でしたでしょうが。
そう吐き捨てたいセリフをグッと飲み込みつつも、ブリッツウィングは今の状況を考える。
下っ端の離反は予想範囲内だ。元々、全てのディセプティコンがメガトロンに忠実であるわけではない。中には流れ者の傭兵もいれば、ただエネルゴンとオイルにありつけるからと言う理由で入っている者もいる。
ただ懸念すべき材料もある。
もしも幹部クラスのディセプティコンが反旗を翻すならば事態はややこしくなるだろう。
もしも出発を妨害しようとするならば…

「そう言えばラグナッツの姿が見えねーな?アラクニアもいねぇし。ショックウェーブもまたボットのところか?」
「さあ……各々やるべき事があるのでしょう。貴方も黙って働いてくださーい」
「…やっぱお前冷たい」
「そりゃあ、アイシーですから」



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