TFAラストエンゲージ | ナノ

オプティマス、実家に帰るA

くしゅん。

機械生命体なのに何故かくしゃみはする。
そんな些細な疑問は本当に今更だから誰も気に留めないし別に困る事もない。
ただくしゃみをする瞬間、宇宙のどこかで現夫たるメガトロンの声が聞こえた様な気がして内心首を傾げた。
はぁ。
オプティマスは疲れた様に排気する。
(私は…ここでなにをしているのだろう。メガトロンから強引な理由をこじつけて、逃げ出して。何だか分からないけど不安でいっぱいで…メガトロンにも言えなくて…)
おかしいな。幸せな筈なのに。
メガトロンの傍にいることを自分が望んだ筈なのに、この底知れぬ不安感は何なのだろう。
寂しいような怖いような。
仄暗い闇に足元から侵されるようで、理由は無いが怖いのだ。
自分も周りも変わることが怖い。
(私は怖いから逃げ出してしまったのか…)
首から包まるブランケットを握る指に力が篭る。
ボンヤリとしながら周りを見渡した。結婚して離れてから訪れていなかったが、ここはなに一つ変わらない。
微々たる変化はあるけれど。
「オプティマス、寒いのか?暖房つけるか?」
と、そこへ温めたエネルゴンミルクを運んできたラチェットが現れる。
「…いや大丈夫だよ。ありがとうラチェット」
「おまいさんももう一人の体じゃなか。あんま無理はせんでくれ。ほれ、これでも飲め」
「ありがとう……ハァ。体が温まるなぁ。なんだか久しぶりに帰ってきたと実感するよ」
生き返るなぁ…と美味そうに飲むオプティマスをラチェットはじっと見つめている。
「そいで?」
「ん?」
「何があった。まさかメガトロンが嫌になって出戻って来たとかか?」
「まさか!そんな理由じゃないさ!ただ私が…」
「おまいさんが?」
「…何だか不安でいっぱいになってしまって、どうしたらいいのか分からなくなったから帰りたかったんだと思う。メガトロンが嫌いになった訳じゃないんだ。ただなんて言うか…不安でたまらない」
オプティマスはカメラアイの光を消して俯いた。
本当に大した理由などない。
ただ本当に不安で、寂しくて。どうしようもない。
こんな気持ちになったのは初めてだった。ディセプティコンと戦っている時でさえこんな気持ちにはならなかったというのに。
両手を組んで沈黙するオプティマスを見たラチェットはやれやれと嘆息する。
医者であるラチェットにはオプティマスが情緒不安定になった原因をすぐさま見抜いたのだ。
不謹慎だが、彼でも陥ってしまうようだと逆に感心してしまう。
「…オプティマス。それは誰にでも起こりうる事じゃっど。恥じる事じゃなか。いいか、今おまいさんはいわゆるマリッジブルーとやらに罹っとる。やたら不安に苛まれるのはそのせいやか」
「…マリッジブルー?」
「結婚前後の、特に新婦によく見られる。結婚する事で激変する環境のストレスで情緒不安定になる傾向がある。おまいさんはまさにそれじゃっど」
医者の見解を聞いていたオプティマスはカメラアイを丸くした。
「あ……そう、なのか…?いつも不安を感じていたのはそのせいなのか?」
そういう事なのか?
ラチェットは頷く。
「まあ、間違いなか。とにかく落ち着くまでここに居たらよかよ。メガトロンにはおいが話しつけてやるから安心せぇ。落ち着いたらまた改めて話し合えばよか。おまいさんは今はただゆっくり休め」
「ラチェット…うん。ありがとう。なんだか安心したよ」
「安心したらはよ休めオプティマス。夜更かしは腹の子供にも悪いぞ」
「性格には卵なんだけどなぁ。わかった、そろそろ休ませてもらうよ。お休みラチェット」
「ああ、お休み」
ほんの少し安心したように微笑むオプティマスはゆったりとした足取りで自室へと去っていく。
ラチェットはしばらくオプティマスが消えた先を見つめながら、今だ迎えに来ないメガトロンの顔をブン殴りたい衝動に駆られていた。
「あのアホは何をしちょっとか。ええ加減にせんと無理矢理にでも連れ戻すぞ…」
この場にいない男にひたすら怨嗟を吐き出しながらラチェットはエネルゴンミルクを飲み干した。


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