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※全寮制のアンチ王道学園。一途な会計(恋人有り)に想いを寄せる、生徒会補佐(男前寄り)のお話。悲恋話でメリバ寄りです。


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※脇役の性描写アリ



「ちょ、陸ちゃん!? …はぁ、切れたよ」
「浅尾さん…スか?」
「まぁね〜」

 カタリとスマホを放る手付きが荒い。
 はぁ〜と深いため息をつくその人は、雨宮尚(アマミヤヒサシ)先輩。この学園の生徒会役員で会計様だ。
 電話の相手は雨宮さんの恋人である、生徒会役員で庶務の浅尾陸(アサオリク)先輩。見た目から声から甘いお菓子の様な人で、格好良い雨宮先輩にお似合いの人だ。

 雨宮先輩は格好良い。それはそれは、驚くほどに。
 背も高いしスタイルも抜群、容姿も良ければ頭も良くて、周りからは風貌からチャラいと思われがちだが実際はとても一途。
 どれだけ浮気されても浅尾先輩だけを大切にしている。

「……直ぐに飽きて戻ってきますよ」

 何の慰めにもならない台詞しか出てこなかった。

 大丈夫、絶対貴方の大切さにいつか気付くはず。今は当たり前すぎて分からないだけ。だから、そんな困った顔で笑わないで下さい。俺まで辛くなるから。

 俺は貴方が
 好きなんだから……


 ◇


 全寮制の男子校。
 学園内の頂点に君臨するのは生徒会と、唯一対等に立てる風紀委員会。そのふたつが主に学園を回していく、つまり学生が学生の統制を取るという妙なシステムであるのがウチの学園の特色。
 多感な時期に男しか居ない狭い世界では、同性同士の恋愛が当たり前の様に横行している。

 だが、そんな問題だらけに見える学園も、それなりに平和だったのだ。ほんの、少し前までは…


 季節外れの転校生。それが事件の幕開けだった。
 普段他人に興味の無い生徒会役員達が、何かの魔法にかかったみたいにこぞって転校生に落ちていった。
 それと共に仕事を放棄する様になり、今では会計の雨宮先輩と、生徒会補佐の俺、中川旬(ナカガワシュン)の二人だけしか生徒会に残っていない。

 俺から見ると雨宮先輩の恋人である浅尾先輩は、ただ面白がって転校生について回っているだけに見えていたのだが…
ともかく浅尾先輩も、恋人からの呼び出しにも応じずここへはやって来なくなった。

 ただ、夜になるとたまにここへ来て、二人で仮眠室に消えていく。
 何をするのか何て聞かなくても分かるから、俺はそっと席を外す。

 辛くないわけがない。
 好きな人が別の誰かを抱いているのだ。
 けど、例えどれだけ俺が雨宮先輩を想っていたって、あの人が見てるのは浅尾先輩。その事実は変わらない。
 今日もまた、不毛な想いを抱きながら俺は生徒会の仕事をこなすのだった。



「ぁ……浅尾先輩」

 やっと処理の済んだ書類を風紀に届けて戻って来ると、生徒会室には浅尾先輩が立っていた。

「お久しぶり、です」
「何それ嫌味?」
「え、いや…」
「尚は?」
「…職員室です。まだ暫くかかると思います」

 ふーん、と甘ったるい見た目にそぐわず冷たい声を出すと、特別軽蔑した目を俺に向けた。

「お前さ、今嬉しいんだろ」
「は?」
「僕が気付かないとでも思ってたの?とっくに気付いてるよ、お前のその卑しい気持ちなんて」

 先輩の言葉に俺は全身の血が凍った気がした。

「ふんッ。真面目ぶってるけど、仕事してる“フリ”だろ? 醜いよねぇ。お前さぁ、自分を鏡で見たこと有る? 何処からどうみたって男臭い男だよ、全く可愛く無い。身の程を弁えな」

 ドンッと細い先輩の腕に押され、俺の大きな体は簡単に尻餅をついた。
 
 分かってるさ、自分の見た目くらい嫌って程分かってる。浅尾先輩の様な小柄な体も持って無いし、見た目はいかにも野球少年。てか実際野球少年。体つきだって割と筋肉がついてるし、肌だって日に焼けて小麦色。
 何処からどうみたって“可愛い”なんて言えない姿だ。

 だが、疚しい気持ちが無かったとは言い切れないが仕事はちゃんと仕事として頑張ってきた。今だって雨宮先輩と二人だけなのはそりゃ嬉しいが、それはこんな状況でなければの話だ。
 浅尾先輩達の居ない生徒会の仕事は、辛くて大変なことの方が明らかに多かった。

 それでも、雨宮先輩が文句一つ言わないで頑張っているから、浅尾先輩の帰りを待っているから……俺もそれを支えようと頑張れたのだ。なのに、そんな言い方って無いじゃないか。
 床に着いた手をぎゅっと握る。

「あれ…旬、そんな床に座ってどうしたの」
「おっそぉーーーい!」
「わっ、陸ちゃん?」

 用事を済ませて戻って来た雨宮先輩に浅尾先輩が飛び付く。

「あん、ヒサシ〜!」
「ちょっと陸ちゃんどうしたの、こらこら」

 雨宮先輩の首に腕を回し擦り寄る浅尾先輩。まるで俺に、拒絶されない自分の姿を見せつけているようだ。

「ねぇ、ヒサシ。僕カラダが疼くのぉ…シよ?」

 大きな潤んだ瞳で見つめられれば、ましてそれが好きな相手ならひとたまりもないだろう。

「俺、今日はこれで帰ります」
「えっ、旬!?」

 肯定の返事なんて聞きたくない。素早く床から立ち上がると、雨宮先輩の制止を無視して生徒会室を飛び出した。
 俺はただ、ただ好きでいることも許されない。


 ◇


 ――リンゴーーン

 無駄に高級感のあるインターフォンが鳴った。
 あぁ、こんな音だったな、などと無意味なことを考えながらベッドから起き上がりチラリと時計を見た。

「へっ!?」

 時計の針は何故だか一時を指している。部屋の明るさから言って明らかに夜ではない。因みに休日でもない。血の気がサァッと一気に引いた時、再び部屋の中に“リンゴーーーン”と重い音が鳴り響いた。
 慌てて玄関へかけていき誰かも確認せずに扉を開ける。

「おっ、」

 凄い勢いで開いた扉に驚き後ろに飛び退いたのは。

「あ、雨宮せっ、せんっ!?」
「……体調不良、ではなさそうだね」
「えっ!?」
「え、じゃないでしょ。今何時だと思ってんの? 電話しても出ないし」

 さっき見た時計を思い出してまた血の気が下がる。

「すっ、すいませんっ」
「いーよ、体調悪いんじゃないなら。旬が寝坊とか初めてだからちょっと心配しただけ」
「先輩…」
「ほら、さっさと用意して。仕事が山盛りだよ?」

 もう一度謝ると、雨宮先輩が「疲れてんじゃない?」なんて言うから俺は泣きたくなった。どんだけ優しい人なんだろう。先輩のほうが疲れてるはずなのに…

「三十秒で支度しますっ!」


 ◇


「先輩っ、来ちゃ駄目です!!」

 俺を待っててくれた先輩と共に生徒会室へ向かう途中で遭遇した、空き教室の異変。
 立場上放置が出来ないので足を向けざるを得なかったのだが、それが不味かった。先に様子を見に行った俺が見たものは…

「あっ、あっ、あんッ、あぁあん」

 体育会系の男二人を相手に乱れまくる浅尾先輩の姿。
 後ろから歩いて来ていた雨宮先輩に制止を呼びかけたが、それは残念なことに間に合わなかった。

「……陸ちゃん」
「ぁっ、あん! …え? ぁっ、ヒサシ? ぃあんっ、ちょっ、抜けこの野郎ッ!!」

 雨宮先輩を見つけた浅尾先輩は一瞬驚きを見せたものの、それは直ぐになんでも無いといった様に戻り、自分の中に挿れていた相手を殴り飛ばして突き放した。

「……何してるの」
「ヒサシぃ、大丈夫だよぉ? こんなのちょっと溜まったから抜いてただけだし、ね?」

 なんでも無いことの様に、今まで別の男に触れていた手で雨宮先輩に絡み付く。

「ほらほらぁ、そんな怖い顔しないのぉ! 生徒会室行こう? ね?」

 無言で険しい顔をしたままの雨宮先輩の腕を取った浅尾先輩は、そのまま部屋から消えて行った。
 まだこの部屋には浅尾先輩と、絡み合っていた他二人の精の臭いが充満している。
 
 吐きそうだった。
 この臭いにも、あの男二人にも、浅尾先輩にも…浅尾先輩を許す雨宮先輩にも。

 どうして貴方は、あの人のものなんだろう。
 そう思ってしまう自分に一番吐き気がした。



 結局その日は生徒会室に行けなかった。
 うだうだしている間に風紀委員長に捕まった俺は、ひたすら風紀室でこき使われ、くたくたになって寮へと戻る。

「随分草臥れてるじゃない」
「………」

 寮の入り口に腕を組んでもたれ掛かっている浅尾先輩。最近浅尾先輩の絡みが執拗になっていた。
 元から好かれている自信は無かったが、雨宮先輩への気持ちを暴かれてからだろうか。転校生へ纏わり付くのを辞めはしないが、生徒会室へ現れる回数が明らかに増えていた。
 だが相変わらず仕事はしないままなので、俺をいたぶる趣向へと変えたのかもしれない。

「あの後、ヒサシは僕を抱いてくれたよ。言ってる意味、分かる?」

 無意識にギリっと奥歯を鳴らした。

「ああいうのをヒサシが見たのは、今回が初めてじゃない」
「………」
「でもね、許してくれる。僕のことが大好きだからね。ヒサシは僕のすることは全部許してくれるんだよ」

 先輩は勝ち誇った様に、腕を組み直すと口の橋を上げて笑った。
 シャツの隙間からチラリと見えた赤い痕。それは昼間のあの男たちが付けたものかもしれない。でも、その後についたものかもしれない。
 嘲笑われるのは分かっていても、口元を覆い目を逸らす事を止められなかった。俺は甲高い笑い声を背に猛ダッシュで走る。
 誰かに声をかけられた気もするが、自分の部屋に入るまでその足が止まることは無かった。

 消えてしまえたら、楽なのに…




 暗闇の中、浅尾は立ち尽くしたままだった。
 強く強く、手の平に爪が食い込み血が滲む程に握った彼の手に、誰も気付くことは無い。


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