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「元気無いね、何かあった?」

 自分の部屋に飛び込んだ少し後、部屋を訪ねて来る者がいた。

「歩…」

 この学園で出来た、親友の松嶋歩(マツシマアユム)。
 見た目は小柄で割と可愛らしいが、中身は凄く男前な奴だ。因みに腕っ節も強いく、なんと風紀の副委員長として活躍している。

「歩…おれ、俺もう無理…」
「うん分かった。じゃあ抜こっか」
「えっ」


 ◇


「どう、スッキリした?」
「……まぁ」

 歩と俺はたまに溜まると抜きあうことがある。

「悶々してる時にはやっぱ抜くのが一番っしょ」

 可愛らしい見た目とのギャップが激し過ぎて、はじめの頃は着いて行けなかった。だがまぁ、良くも悪くも歩はこんなもんだ。

「で、どうすんの?」
「へ?」
「生徒会」

 浅尾先輩が最近生徒会室によく現れる様になった。
 その度に目の前で雨宮先輩に絡みついて、おねだりして、ため息をつきつつも一緒に仮眠室に消えて行く。

「行きたく無いけど…行く。仕事有るし」

 そう言うと歩は「はんっ」と馬鹿にして笑った。

「お前ほんとお人好し。好きなんだろ? 雨宮先輩のこと。目の前でイチャつかれて殺したくならねぇの?」

 歩は風紀だから、俺がよく風紀室に逃げ込んで仕事をする理由を知っている。相変わらず物騒な物言いにギクリとするが、あながち間違っていないことも問題かもしれない。

「殺したくは無いけど、殴りたくはなる」
「どっちを?」
「雨宮先輩」

 歩はゲラゲラと腹を抱えて笑う。

「恋は人を盲目にするからな。殴ってやった方が良いかもしれねぇぞ? あ、そうだ。可哀想なお前にプレゼント」

 いきなり間合いを詰めて来た歩に驚いて後退するも捕まり、首元に顔を埋められた。

「いっ!?」

 チクリとした慣れない痛みに眉を顰めると、そこにもう一度ちゅっと唇を落として歩が笑った。

「これで何か進展すると良いな」

 今度のそれは、優しいものだった。




「あの…」
「なに」
「いや、なんでもないです」

 次の日。漸くいつも通り生徒会室に向かうと、雨宮先輩は俺を見て一瞬何かに驚いた顔をした。そして何故かそれから先輩の機嫌がすこぶる悪い。
 俺、何したんだろ。

 先輩はずっと黙々と仕事をしていて会話が無い。とても居心地が悪い。
 浅尾先輩とは、あの後この部屋で仲直りしているはずだ。だとすると、あの後生徒会室に戻らなかった俺に怒っているのだろうか。

 大体昨日はスタートから寝坊してしまったのだから怒られても仕方ないが、迎えに来てくれた時はあまり怒ってなかったと思う。とすると、矢張り戻らなかった事が原因と考える方が可能性は高い。
 でも、イチャつくどころかあのまま仮眠室に雪崩れ込む二人の居る場所に戻れる訳がないし…。

「理不尽」
「なに?」
「何でもないです」
「さっきからそればっかり。言いたいことが有るなら言えば?」

 いつもの先輩らしくない妙に突っかかった言い方に、ムカつくよりも驚いた。

「いえ、ほんと何でもないので。すいませんでした」

 怒っている理由が分からないので、酷くならない様にしなければと取り敢えず謝った。
 幾ら期待はしていないと言っても、好きな人から辛く当たられるのは正直堪える。ひとまず書類を風紀に提出して気分転換でもしてこよう。そう思って書類に手を伸ばした時だった。

「何してんの?」

 書類に届く前に、雨宮先輩に手を掴まれる。

「へ、」
「何処行く気?」
「風紀室……ですが」
「仕事のフリ、上手くなったね」

 言われた意味が全く分からない。掴まれた腕を離そうとしても力は更に強くなり、もっと先輩に近付かされた。

「これ、付けて貰いにでも行くんでしょ」

 トントン、と指で叩かれた首筋。意味が分からず首を傾げるが、今朝鏡で見た赤い痕を思い出す。

「なっ、こ、これは違います!」

 バッと空いた手で痕を隠すと、先輩は更に眉間にシワを寄せた。

「戻って来ないと思って心配してたら、まさかこんな事してるなんてね。見損なった」

 先ほどとは逆に、今度は強く突き放される。

「見損なうって……何ですか」

 思わず声が震えた。

「何ってそのままの意味だけど」
「………は………い」
「え? なに? 聞こえないんだけど」
「アンタにだけはっ、言われたくないっ!!」」

 バリンッ、と激しい音が響く。どうやら俺は、近くにあった花瓶を壁に投げつけた様だ。

「っ!? ちょ、旬!?」
「俺が風紀室で、ヤラシイ事でもしてたって言うんですか!? そんなのあんまりだよっ!」
 「旬!」
「ここへ戻れなくしたのはアンタだろ!? 俺は昨日だってちゃんと仕事してたよっ! 風紀室でクタクタになるまでこき使われてっ!!」

 手当たり次第近くに有るものを先輩に投げつける。もう、何が何だか悲しすぎて分からない。

「これはっ、この痕はプライベートな時間で付けたヤツだ!! こんな場所で、俺を追い出して発散してる先輩とは違うっ!」
「旬!!」
「アンタはいつだって浅尾先輩の事ばっかりだっ! 仕事をしないことを怒りもしないで許して!! 俺たちは誰のせいで苦しんでると思ってんの!?」

 悲しすぎて涙すら出ない。溜まりに溜まった思いを吐き出すと、物を投げる手は漸く止まった。
 そのタイミングを測って、雨宮先輩が俺の肩に手を伸ばそうとした。

「触らないで下さいっ」

 けど、俺はバシリとその手を払いのけて距離を取る。
 やめてよ! あの人を許した手で俺を触らないでよ!!

「見損なった? 上等ですよ。好きな様に思って下さい。アンタにどう思われたって俺には関係無いっ!!」

 そのまま呆然としている先輩の横を通り過ぎて、俺は生徒会室を出て行った。もちろん、扉は壊れるかと思う位強く派手な音を立てて閉めてやった。
 あんな男、もうどうでもいい! 今日もどうせ浅尾先輩はやってくるんだ、あの可愛らしい性格のクソ悪い男にカラダで慰めて貰えば良いんだ。

 畜生っ!!


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