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可笑しな噺


「ね、一緒に帰らない?」

 コテンと首を傾げる一人の少年。
 少女と見紛う様な愛らしい容姿を持つ彼は、クラスどころかこの男子校の全校生徒から“可愛い”と評判のクラスメートだ。
 小柄で華奢なカラダの肌は透き通る様に白く、ふわふわの栗色の髪に、同じ色の長い睫毛に縁どられた大きな瞳。

 そんな柔らかい色に包まれた彼に比べて、俺はと言うと背も高く骨格もしっかりとしている。
 色黒では無いが日に当たれば直ぐに焼けるし、繊細なイメージをもたれる事なんて無い容姿だ。つまり、俺は“男”そのものだと言う事だ。

 彼がどんなに少女の様だったとしても男だ。
 そして、紛れも無く俺も男だ。それなのにどうしてか、最近の俺は彼の事ばかり考えてしまう。

 きっと俺は、どこかが可笑しいのだ。



「ねぇ、今日僕の家に寄って行かない?」

 最近よく帰りを誘ってくれるようになった彼に、今日は自宅へと誘いを受けた。
 そんな夢みたいなお誘いを受けた俺の頭の中はお花畑。だが、いつでもムスッとした見た目の俺からはそれを読み取ることはきっと誰も出来ない。
 喜びなんて顔にはにも出さず、俺はただ手を引かれるままに付いて行く。






 ゴロン…

 冷たいお茶が残ったコップが、柔らかいラグの敷かれた床に転がる。だが、それを俺が拾う事は容易でなかった。

「ぁ……あ…」
「カラダ、全然動かない?」

 いつもと変わらず愛らしい彼が、コップと一緒に床へと転がった俺を見下ろしていた。そんな彼に見惚れていた俺も、彼の次の行動に目を見開く。

「声も全然出ない? うーん、それはちょっと残念かも」

 そう言って彼は、仰向けで倒れる俺の上へ馬乗りになった。
 ゆっくりと伸ばされた手は指先だけが俺の頬へと落ち、そしてそのまま首筋を辿る。その刺激に俺のカラダが反射でピクンと跳ねる。

「もしかして怖いの? 怯えてる? ふふ、可愛いね」

 彼は見たことのない怪しい笑みを浮かべ舌なめずりをした。
 俺の首筋から離れた指は、ゆっくりと彼の口の中へと消えて行く。

「手加減、出来るかな? 出来ないかも、ごめんね? だってずっとずっと我慢してたからさ…もう、限界なんだよね。オレのこれ、お前ん中でぐちゃぐちゃに掻き回したい」

 そうして口から取り出された指は、彼の唾液でキラキラと美しく光っていた。




 きっと、俺はどこかが可笑しいのだ。

 例え一人称が変わろうとも、俺を“お前”と呼ぼうとも、愛らしい表情が変貌しようとも。
 肌を乱暴に暴かれようとも、他人に見せた事なんて無い場所を見られようとも。

 その熱をもっともっと奥深くへ…

 そう、
 欲深く望んでしまうのだから。


END


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