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……そう言って、いったん火野は引き下がり、親衛隊は作らないまでも単独行動は控えるようになった。が、それからというもの、火野はやたらと俺に突っかかるようになった。もちろん、精神的な意味でなく物理的な意味で。最初は適当にあしらっていたのだが、最近は中々いい攻撃をしてくる時も増えた。後で風紀の部下に尋ねると、火野は俺を倒すために空き時間は体を鍛えているらしい。元から強かったが今はまるでゴリラのようだと、副会長が嘆いていたと聞いた。そして今日の仕儀となるわけだが、……しゃくにさわるが、最初はともかく最近はかなり本気になって相対せざるを得ないくらい、火野は腕を上げていた。自分で言うだけあり、火野は確かに運動神経においては天賦の才があるらしい。それを認めたくない気持ち、そして一回でも負けた、という事実に忸怩たるものがないわけではない、……が、これでやっと火野との決闘まがいから解放されるわけだ。やれやれ、と俺が心中ため息をついていると、火野は満面の笑みを浮かべながら俺に言った。


「まあ、これで第1ラウンドは終了、……ってわけで、第2ラウンドといこうか、水村ぁ?」
「……は?」



満面の笑みを浮かべる火野に、俺はつい眉をしかめてしまう。すると火野は、ニヤニヤ笑いながら言った。


「わかんねぇとでも思ったか、テメェ、最初の頃は手ぇ抜いてただろ。……ったく、こっちはマジでやってんのにテキトーな事しやがって」
「……」
「だが、これでテメェも俺の強さがわかっただろ。まあそういうわけで、これからもテメェには俺との勝負に付き合ってもらうぜ」
「……おい、なんでそうなる」


心の底からぞっとする発言に俺は思わず眉をしかめてしまう。それに火野はフフン、と笑いながら言った。


「そりゃあ、テメェも強いからに決まってんだろうが。俺も中坊の頃は結構派手にやってたからな、昔の血が騒ぐっつーか、……勝負っつーのは鍛練がわりにちょうどいいしな、テメェだってひ弱な部下どもを相手にするより俺と手合わせする方がいいだろ」
「……馬鹿馬鹿しい。何で俺が貴様とじゃれあわねばならない」
「いーだろーが別に。それともなんだ、もう、俺に勝てる自信がねぇのか、あ?」
「安い挑発なんぞには乗らんぞ」
「けちくせぇな、風紀委員長ともあろう男が。……よし、なら俺が勝ったら、俺と強制的に付き合うってのはどうだ?テメェも貞操がかかったら少しはやる気になるだろ」
「そんな条件を受けるわけないだろう、死ね」
「即死かよ!なー、おーい、ちょっとくらいいいだろー?少しくらい喧嘩に付き合ってくれたって!このガッコは骨のあるヤツがいねーから退屈してんだよ俺ぁー」
「……」


なー、なー、と、うるさく火野は俺に言い募る。それを俺は心底呆れてしまう。……というか、こいつはこんなにガキっぽい奴だっただろうか。こいつの第一印象は、やたらクールぶった一匹狼の俺様、だったのだが。心中ため息をつきつつ、いつまでもうるさい火野を睨み付けながら俺は言った。


「……わかった、暇な時くらいは相手してやる」
「!お、マジで!」
「だが勘違いするな。貴様と馴れ合う気は一切ない。俺が貴様と相対する時は手合わせする時だけだからな」
「りょーかいりょーかい!」


そう言うと、火野は見たこともないくらいの満面の笑みを浮かべると、


―――チュ、


「っ!?!?」
「じゃーな、水村」


一瞬、頬に気色悪い感触、――と、先ほどまでとは別人のような薄い笑みを浮かべた火村が目に入る。その笑みは妙な色気すら滲ませているように見えた、――が、すぐに火村は先ほどのバカみたいな笑顔に戻り、あっという間に俺から離れるとヒラヒラ手を振り去っていく。その背を、俺は苦い気分で睨み付ける。


……あんなにあっさり、近づく事を許してしまうとは。


格下だ、と思っていた男に、こうも簡単に間合いに入られた事、これはかなりの屈辱だ。いつの間に、……という悔しさ、と、一瞬見せた火村の蠱惑的な笑みにドキリとした己に苛立ちを隠せず、俺は舌打ちをすると強く自分の頬を拳で擦りつけた。


・END・

テーマは『下克上』でした。喧嘩ップルブームになったのでそんな感じで、……趣味ですはい。

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