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ーーこの男、火野剛(ひの・つよし)は我が校の生徒会長。整った顔、バランスのとれた長い手足と身長。しかも文武両道と、どこをとっても隙のないこの男は校内でもかなりの人気を誇っている、いい意味でも悪い意味でも。いい意味は言葉の通り、そして悪い意味というのは、ここが男子校、……しかもエスカレーター式の寮制で、何年間も男しか見ていない状態、といえば大体わかるだろうか。だから、容姿のよい人気のある生徒はここでは『親衛隊』と呼ばれる自警団のようなものを持つようになる。入学当初から注目を浴びていた火野にも当然それはあってしかるべきなのだが、こいつはそれを拒否し、あまつさえ単独でフラフラと歩きまわっていた。曰く、『男が大勢でつるんで男に守られるなんざみっともねぇ』。最初は、俺も、火野がここに高校から編入してきた事も鑑みて、親衛隊設立をやんわりと説得していた。この学校の気風がわからなければ確かに理解不能かもしれないと考慮しての事だった。が、一年経ち、二年になり、皆に推されて生徒会長になってもこいつは無頓着なままだった。さすがにもう看過できない状況だと判断した俺は、何度も親衛隊の設立、それが嫌なら少なくとも誰か生徒会役員と行動を共にしろ、奴に言っていた。しかし奴は一向に聞く耳を持たなかった。ーー確かに何度も襲われはしたが全部撃退してきた、こんなひ弱な奴らしかいない学校で自分を押し倒せる人間などいるわけがない、と言って。だから俺は、火野を襲って生徒会長室の机に押し倒した。当然、おかしな気持ちからではなく、こいつの慢心と油断に対する警告のために。俺の手から逃れようとする顔を覗きこみながら、俺は火野に低い声で言った。


「……これでわかったろう。貴様は強いつもりだっただろうが、上には上がいるんだ。もし俺に邪心があったら、貴様は男として最大の屈辱を受けていたかもしれんのだぞ」
「……っ、」
「わかったなら、単独行動は慎め」


そう言うと俺は火野の手を離す。すると火野は、俺を睨みつけながら体を起こした。


「……そういうテメェはどうなんだ、テメェも風紀のアタマのくせに単独で行動してるらしいじゃねぇか。名高い『美人風紀委員長』が、部下に守っていただかなくていいのかよ?」
「俺に勝てる生徒などこの学校にいない」
「は、それが慢心って言うんじゃねぇのか、……よ!」


そう言うと、今度は火野が俺に飛びかかってくる。が、俺は簡単にそれをいなし、今度は床に火野の体を叩き伏せ右腕をねじり上げた。


「……ぐ!」
「……現在の貴様の状況。右腕、上半身固定。不用意に動けば、……どうなるかわかるな」
「……テメェ、」
「俺は面倒は好かない。それに、半端な強さを誇る雑魚は我慢ならん。俺一人に負けるような雑魚は雑魚らしく、大人しく籠に入ってろ。敗者は勝者に従え」


それだけ言うと、俺は火野を離し、生徒会室から出ようとする。すると、後ろから火野の声が聞こえてきた。


「……は、なるほどなぁ。……なら、俺がテメェを倒せたら、俺は俺の好きにしてもいいって事、だな?」
「……なんでそうなる」


予期せぬ言葉に呆れつつ、俺は火野に振り返る。すると火野はふてぶてしい笑みを浮かべながら言った。


「『敗者は勝者に従え』、っつーんだろ?……取り巻きを作るのはゴメンだからな、しょうがねぇから今日から役員の誰かと最低限、つるむようにしてやる。だが俺がテメェに勝ったら、俺の好きにさせてもらう。……構わねぇよな?」

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