デッドエンド(王道・名倉と薬澤、サト)


注・この話は名倉と薬澤が付き合っている場合のifです。



意識が浮上した途端、まず最初に感じたのは、体全体を覆う痛みと確かに感じる充足感。表側の肉の微かな痛み、内側に感じる確かな痛み。そしてそれを鎮めるような冷たさを背中に感じ、俺は目を開け周囲に視線を向ける。……打ちっぱなしのコンクリートの壁に床。地上へと繋がる階段以外に他に何もない薄暗い空間に、俺の千切られた服だけが散乱している。……その途端、俺にのしかかるヤクザワの姿を思い出し、俺は少し唇を歪めながら身を起こす。すると、まるでそれを予期したように扉の開いた音とともに、階段を下りるヤクザワの姿が目に入った。何となく、俺はそのヤクザワの姿を見上げる。上半身裸のヤクザワの胸や腕には、見覚えのある痣がある。……あれは確か、ヤクザワに興奮した俺がつけた殴り痕だ。そして思う様俺も奴の拳を、蹴りを身体中に浴びせられ、そして、


「……」


……その瞬間を思い出した俺は体の奥が熱くなり、まだ身中に燻る欲望を感じながら立ち上がる。するとヤクザワも俺の方を向き、唇の端を歪めつつ声をかけてきた。


「……ようやくお目覚めか、淫乱。どうだ、いい夢でも見られたか」
「……」
「……は、」


俺が期待を込めてヤクザワを見上げると、ヤクザワも俺の意図を察したらしい。ますます唇を歪めながら俺に近づいてきた。


「……物足りねぇ、って面だな。……あれだけヤってやったのに、まだ足りねぇか」
「……」


俺はヤクザワに答えず、ただヤクザワに近づく。この地下室、……コンクリートに囲まれた薄暗いこの空間は、ヤクザワいわく『ヤリ部屋』。俺をぶちのめし、いたぶるためだけにヤクザワが俺に宛がったものだ。ここならば誰の邪魔も入らない。この場所で俺は激しく攻め立てられ、そして攻め、……初めて床に這いつくばり、そしてヤクザワに体を捩じ込まれた。それ以来、俺は奴にいたぶられたい時は自らここを訪れ、そしてヤクザワもその時は好き勝手に俺を『使う』。好きな時に使い使われる、俺とヤクザワはそれだけの関係だ。だから、目の前に奴がいるなら俺は奴を使う権利があるだろう。俺は欲望のままヤクザワに近づく。……殴るか、蹴るか、それとも。……どれでもいい、俺を楽しませてくれるなら。期待を込めてヤクザワを見上げると、ヤクザワはニヤリと笑うと俺の前髪を掴み上を向かせた。


「……どうしようもない淫乱だな。……俺がそんなに欲しいか」
「……、」
「ふん、」


何も言わずにヤクザワを見上げると、ヤクザワの目に一瞬欲望の炎が揺らめく。それに期待したが、なぜかヤクザワは鼻を鳴らすと俺から手を離し、床に打ち捨てられた俺のシャツを投げて寄越した。


「……ここじゃもう興が乗らねぇな。……出るぞ」
「……は、」
「たまには、アオカンも悪くねぇだろ。……10分待ってやる。まだヤる気があるならナリを整えて外に出て来い」
「……、」


それだけ言うと、ヤクザワはさっさと俺に背を向け上に行ってしまう。そして俺は、その背を少し眉をしかめつつ見つめる。


――相変わらず、気まぐれな。


自分がその気になればいついかなる時も仕掛けてくるくせに、こちらがいかにやる気でも興が乗らねば絶対に指一本も動かさない。そんなヤクザワは癪にさわるし、奴の意のままになるのは不本意ではある。いつもならばこんな誘いには乗らないのだ、……が、何故だか今日はまだ体が疼く。ヤクザワを知って以来、俺の欲望が歯止めが聞かなくなりつつあるのは自覚している。


――仕方ない。


どこに行くかは知らないが、ああ言ったからにはまた俺をぶちのめす気はあるのだろう。今度はどんな趣向が待っているのか、……それを少し期待しつつ、俺は床に散らばる服を拾い身につける。そしてマンションの外に出ると、もう辺りは暗くなっていて、街灯にはもう明かりがついていた。そしてヤクザワはその下で腕組みをして立っていたが、俺の姿を見るとニヤリ、と笑った。


「……随分早いな。シャワーでも浴びるかと思ったが」
「その必要があるか?……すぐまた汚れるだろう」
「……は、」


ヤクザワは嘲るように笑うと、さっさと歩き出す。それに少し眉をしかめつつ、俺はその後を追う。そしてたどり着いた、――その場所は。


「……ここは、」


ゴミ溜めのような街を抜け、雑多な光がうねる飲み屋通りの細道の行き止まり。少し開けた広場のような場所、遠く聞こえる喧騒、か細い灯りに月の光。重ねられたビールケースに乱雑に置かれた資材。……この光景には見覚えがある。いや、ここに来る道程からもう、大体予想はついていた。俺にとっては夜と暴力の象徴である、この場所は、――


俺とサト。あいつと会った初めての場所。そして、族潰しをしていた頃に、あいつと最初に会っていた場所、だった。



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