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……そして、10分後。最後の一人を地に伏せさせると、薬澤は地面に唾を吐き闖入者を一瞥する。薬澤の見立て通り、男たちは凶器を持っただけの壊れやすい貧弱な体だった。しかも凶器の扱いにも不得手で、道具の殺傷力頼みの単調な攻撃は薬澤からすれば遊戯にも等しい。せっかく他所から来た獲物と楽しめると思ったのに、……わかってはいたが想像以上に当てが外れた事に舌打ちしていると、ふとどこかからの視線を感じた。


「……」



目を細めつつ、薬澤は顔を上げる。……害意。殺意。それでいて冷静。この学校ではついぞ感じた事のない視線。それは明らかにこの学校で感じるチャチなものではなく、本物の『悪意』だった。その悪意に高揚を感じながら薬澤がその先へ視線を巡らすと、校舎の三階の窓に、一人の男が立っていた。長い金の髪、玲瓏な顔立ち、誰もが視線を奪われるだろう美しい男。柔和な表情に笑みさえ浮かべたその顔は親しみさえ感じさせるが、その視線だけはまるで血を通わせていないような冷徹さがあった。男はしばらく薬澤を見つめていたが、やがてにっこり笑うと口を動かした。



――ひとのものにてをだすのは、いけないことなんだよ、……ぼうや。



はっきりとわかるようにそう口を動かすと、男は手を振りながらそこから去っていく。それを見、薬澤は口の端を歪める。



「……ふん、俺も安く見られたもんだ」



美しい皮を被った寄生虫。あれが恐らく、あの『雌』、――名倉澪汰に寄生していたダニだろう。あの男好きする体に何人も男を与え、快感を教え込ませた超本人。……それは薬澤にとっては好都合ではあったし、気には食わないが放置しておくつもりだった。……が、今さら現れ、未だあの男につきまとう気なら話は別だ。



「人のモノに手を出したらどうなるか、……こっちが教えてやるよ、ダニ」



ニヤリ、と笑うと、薬澤はその場から去っていく。



――季節外れの美しき転校生。『佐渡瑳都』の襲来により、佐土高校に嵐が吹き荒れようとしていた。



・END・


ちなみにサトの名前は偽名。さわたり・さと。

今回は『狂愛狂想曲』設定をちょっと匂わせているので秋田が不審気味です。


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