下克上生徒会長(風紀委員長×生徒会長)

キーン、コーン、カーン、コーン、と授業終了のベルが鳴る。その途端、ガタガタと皆席をたち、生徒の声で教室はごったがえす。そんな様子を俺は、うーん、と一つ伸びをしながら眺めていると、不意に後ろから声をかけられた。


「よーう、西條、お疲れーぃ。なー、今日こそ俺とランチデート、行かね?今日のスペシャルランチはお前の好きなお子さまハンバーグだぜぃー?」
「……


……馴れ馴れしく肩に置かれた手。そしてわざとらしく耳元に近づかれた唇からは軽く吐息がかかり、それと一緒にさらりと奴の髪が揺れて妙に甘い匂いが俺の鼻を掠めた。それに俺は眉をしかめ、周囲は『おお!』と言わんばかりの視線をこっちに向けてくる。そんないつもの仕草に心底うんざりしながら、俺は肩に置かれた手を払いのけた。


「……市東。何度も言ってるだろうが、俺に馴れ馴れしくすんじゃねぇ。肩に手を置くな、耳に息を吹き掛けるな、気持ち悪ぃ。……ついでに俺は今日は餃子定食と決めてんだ、おととい来やがれ」


思う限りの冷たい瞳で俺は奴の顔を睨み付ける。しかし、奴、――市東は悪びれもせず、しかし少し顔をしかめながら言った。


「はー、ギョーザぁ?昼からナニオヤジくせーの食ってんだよ、俺はニンニク苦手なのによー、嫌みかぁ?それ」
「何を食おうが俺の勝手だろうが。なんなら特注でニンニク倍にしてやろうか、それで二度と俺をランチに誘うな」


俺がそう言うと、市東はニヤニヤ笑いながら肩を竦めた。


「あいっかわらず冷たいねー西條ー?この俺が誰かを誘うなんて滅多にないってーのにさぁ?他の連中なら泣いて喜ぶっつーのに」
「なら是非、それはお前のシンパに言ってやれ。泣いて喜ぶだろ、『靡かずの生徒会長』様から誘われりゃあ」


俺がそう言うと、市東はふん、と鼻を鳴らした。


「あいつら、勝手に群れてるだけのミーハー連中だってわかってんだろ。そんな連中より俺はお前と仲良くしたいんだよ、西條。つーか一回くらいランチしたってバチは当たらないだろー、『敏腕風紀委員長』様ぁー?」
「なら一回くらいお前のシンパとランチしたってバチは当たらないだろ。そうすれば考えてやらんでもない」
「えー、なんだよそれぇー」


最後はだだっ子のように市東は口を尖らす。それを俺はまた、ため息をつきながら見つめる。


市東雅顕(しとう・まさあき)。俺と同じ二年S組、そしてエスカレーター式のこの男子校において、外部生初の生徒会長の地位についた男。金髪ピアスというふざけた格好に合わず成績は常にトップクラス、この男子校においてはトップクラスの完璧な容貌とモデル顔負けのスタイル。それでいて内部生である他の役員の反発をうまく交わしているなかなかのやり手だ。だが、奴は華麗なその見た目で妙な性癖の生徒たちに狙われているというのに、親衛隊を放っておいてはいつもいつもフラフラしている。だから色々なところで変な輩に絡まれ、そしてそれをたまたま俺が助けて以来、奴は俺を何故か気に入ったらしく、事あるごとにランチだディナーだと誘ってくる。それに俺は本当に辟易している。市東は生徒会長、しかも当然、この学校でも最大規模の親衛隊を持つ。そんな男がシンパを放っといて他の男、しかも生徒会と犬猿の仲である風紀である俺にばかり構ってくる。そのせいで風紀は市東に対する敵対心を、そして生徒会長親衛隊は俺に対する敵対心を高めてしまっているのだ。この事態をめんどくさく思う俺は、毎回毎回奴の誘いを断っているのだが、しかしそれでも奴はめげずに俺を誘ってくる。そして今日もやっぱりめげないらしい市東を、また俺は見やりつつ、もう一言何か言ってやろうと口を開こうとすると、それより早く市東はニッ、と俺に笑顔を向けながら言った。

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