ネコミミと膝枕(矢野+みぃちゃん)
『みぃちゃんがまだ一番』より
矢野+みぃちゃん
今日、3月22日は俺、矢野一弥の誕生日だ。親衛隊からは豪勢なパーティーを開いてもらい、形ばかりの『お付き合い』をしている子たちからは愛の言葉と共にプレゼントをもらい、一般生徒からもお祝いの言葉をもらい、それなりに幸せな気分に浸れる日だ、…が。
肝心のみぃちゃんは、朝に俺に会った時、『ふぅん、おめでとう』の一言で終わってしまった。しかも俺が、『ねぇみぃちゃん、今日俺誕生日なんだけど』と言わなければきっとそれすらなかったに違いない。…相変わらずみぃちゃんはつれない。つれないが、やっぱり俺はみぃちゃんが大好きで。
……今日俺は、誕生日にかこつけて、みぃちゃんにかねてからの俺の願望を叶えてもらおうと、固く決心していた。
‐‐‐
「ねぇみぃちゃん、お願いだからー」
「フザケンナ」
「今日俺、誕生日なんだよー、だからお願いー!」
「一昨日来やがれ、変態」
そう言いながら、みぃちゃんは俺の手からネコミミをはたきおとす。俺はそれをまた拾い上げ、みぃちゃんに差し出す。
「ねぇみぃちゃん、ちょっとだけでいいから!五分、いや一分だけでも!」
「バカ言ってんじゃねぇよ、なんで俺がそんなもん着けなきゃなんねぇんだ!……いい年の男子高生がネコミミなんて、……寒気がするわ!」
みぃちゃんは怒っている。が、ここで引き下がるわけにはいかない。
「……でも、一年の文化祭で、ネコミミ喫茶の時、みぃちゃんネコミミ着けてたじゃん」
「……ぐ、そ、それは持ち回り分担制で仕方なくだな、」
「でも着けてたじゃん。……俺、みぃちゃんは厨房係でネコミミ着けないって聞いてたから、みぃちゃんが厨房係のとき遊びに行っちゃったけどさ、……知ってたら、ウェイターの時遊びに行ったのに。そんで写真、いっぱい撮ったのに」
「……それがわかってたから言わなかったんじゃねぇか……」
「?みぃちゃん、なんか言った?」
「……いいや、なんでも。……ともかく、ネコミミなんざごめんだ。着けたきゃ、自分で着けてろ!」
そう言ってみぃちゃんは、ぷいっと横を向いてしまう。やっぱりみぃちゃんはつれない。だが、やっぱり俺は、みぃちゃんのネコミミ姿を見たい。……だって他の奴はみぃちゃんの生ネコミミ姿を見たというのに、恋人の俺が見てないなんて、不公平だ。理不尽だ。
俺は、みぃちゃんをき、と睨み付けながら言った。
「……わかった。じゃあ、勝負だ、みぃちゃん」
「……は?」
「みぃちゃん、陸上部入って足が速くなったんでしょ?俺と勝負だ、みぃちゃん。もし俺がみぃちゃんに負けたら、ネコミミは諦める。けど、俺が勝ったら、おとなしくネコミミ着けてよ、みぃちゃん」
「………」
その言葉に、みぃちゃんはますます剣呑な目付きで俺を睨んだ。
「……舐められたもんだな。俺は今、弱小とはいえ陸上部いち速くなったんだぞ。練習だって毎日してる。そんな俺に勝てるとでも?」
「……それくらい、必死なんだって、わかってくれないかなぁ、みぃちゃん」
俺は言い募った。
「俺はそれくらい、みぃちゃんのネコミミ姿が見たいんだ」
「………アホか」
「……アホで上等だよ。で、……どうなの、みぃちゃん」
俺はみぃちゃんを見つめる。すると、みぃちゃんはため息をつくと言った。
「俺が勝ったらネコミミ着けないだけじゃ、俺にメリットねーよな」
「う、……じゃあ、どうすれば」
「……そうだな」
みぃちゃんは少し考えた後、俺に言った。
「……じゃあ、俺が勝ったら俺の言うことなんでも聞けよ」
「え?そんなんでいいの?」
「……お前、そこで抵抗とかしないのか?」
「みぃちゃんになら何をされてもいいよ。じゃ、早速勝負だ、みぃちゃん!」
勢いこみ、俺はみぃちゃんの手をひき外に出る。……実は、みぃちゃんの最近のタイムを俺は知ってる。確かに速くなったけど、俺が本気で走ればなんとか勝てないことはない。勝ちを確信し、意気揚々と俺はグラウンドに向かったのだ、
……が。
「やっぱ俺の勝ちだなぁ、矢野。毎日練習してる俺を舐めんじゃねーよ」
「……」
勝ち誇った顔で、みぃちゃんは言う。俺はそれを、やるせない顔で聞くしかない。
……結局、俺はみぃちゃんに負けてしまった。本当にタッチの差だったが敗けは敗け。俺はため息をつきながらみぃちゃんに言った。
「……しょうがない。ネコミミは諦めるよ。それで、何をすればいいの、みぃちゃん」
「……そうだな」
みぃちゃんは、机の上に置いてあったネコミミを手にした後、俺に言った。
「……お前、一時間俺の方見るなよ」
「え?」
「絶対見るなよ。……で、俺の横に座れ」
そう言うと、みぃちゃんはソファーに座り、俺の横をポンポン、と叩く。よくわからなかったが、なんでも言うことを聞くと約束したのだ、俺はみぃちゃんを見ないようにしてそれに従う。するとみぃちゃんは、俺の頭をぐい、と引き寄せ、みぃちゃんの膝の上に俺の頭を載せた。
……ふに、と、柔らかいみぃちゃんのフトモモ。……あ、こ、これは、
ひ、膝枕!?やってやって、とお願いしても、ずっとしてくれなかった、あの!?
「み、みぃちゃ、」
俺はびっくりして、思わず顔を上げてしまい、……そして二度驚愕する。
……みぃちゃんの頭に、……ネコミミが、
「おいこら、見てんじゃねぇよ」
不機嫌そうに、ネコミミみぃちゃんは言い、俺の頭をまた膝に強引に載せる。またふに、とみぃちゃんの柔らかいフトモモの感触がして、俺は思わずドキドキしてしまう。
……膝枕にネコミミ!みぃちゃん、みぃちゃんはつれないがやっぱり最後に俺に甘い。見るな、と言われたが俺はちょっとまたみぃちゃんを見てしまう。するとみぃちゃんはそれに気づいてまた不機嫌そうな声を上げた。
「見てんじゃねーよ、変態」
「えへへ、ごめんね、みぃちゃん」
みぃちゃんは冷たい声を出してるが、俺の頭を優しく撫でてくれている。その手が心地よくて、俺はみぃちゃんの膝を抱え、いつしか眠りについてしまったのだった。
・END・
お題・短編『みぃちゃんがまだ一番』より猫の日ネタ
猫の日ではないですがネコミミ→猫ということで。
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