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変態にも日常があります
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たまには変態じゃない、
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そんな時間が続いたら。
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恋人達はどんな一週間を
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過ごすのでしょうか?
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しすせそ作文






低最悪の日曜日

「おい、つくしは居るか」

私服姿でドアを蹴り開けた男に、制服姿で書類を纏めていた少年が目を見開いた。

「いいい飯塚っ君っ?!何で生徒会室に居るの?!日曜日なんだよ?!」
「つくし探しに来ただけだ。つくしを出せ、逆らうと納豆漬けにして埋めるぞ」
「ひぃ」

見た目は今時のチャラい少年は、交際している彼女のコーディネートによりチャラいだけの、気弱でヘタレな涙脆い生徒会計である。

「添田、何処につくしを隠したんだ。可愛いつくしにルーズソックス履かせて、エロの限りを尽くすつもりなら俺も交ぜろ」
「えっ、えっ、ルーズソックス?…つか何で飯塚君が俺の名前知ってるの?!」
「但し、つくしの踝ソックスは俺のもんだ。横恋慕するつもりなら糠漬けにして埋めるぞ」
「ひぃ」

全校生徒並びに教職員が恐れ痩せ細る原因、極悪不良名高い飯塚稲築のフルネームを覚えている生徒は少ない。彼らは一様に「ジャンキー」と呼んでいた。何故ならば、飯塚と会話出来る人間が余りに少ないからだ。

「かかか会長はっ、今日はお休みだよ!用事があるって!」
「つくしめ、折角の日曜だってのに何処に行ったんだ。TSUTAYAでAV借りて、道の駅の山芋買い漁りに行こうって約束したのに…!」
「けっけっけっ携帯に連絡したら?!」

日曜日にも関わらず、多忙な生徒会役員が業務に勤しんでいる校内には、部活動に勤しむ生徒も見える。が、私服姿で堂々と性的話を叫ぶ生徒はまず居ない。
誰か助けてと今にも泣きそうな添田会計を余所に、

「アンタ!こんな所で何やってんのよっ」

紅一点、気の強い女子副会長が職員室から戻って来た。その背後には、缶ジュースを3つ抱えた書記の姿もある。

「飯塚君、こんにちは」
「よぉ菰田、踝ソックス履いてるか?」
「スニーカーソックスって言うんだよ」
「何でも横文字で言えば良いと思うなよ日本人、とろろはとろろだ。トトロじゃねぇ」

目を輝かせている書記は、極悪不良名高い飯塚のファンだ。最近メッシュを入れてモテ度が上がったらしいが、それが飯塚を真似ている事は誰も知らない。

「何シカトしてんのよっ!ジャンキーの癖にっ、日曜まで何しに来たの?!」
「あ?何だ副会長、デカぱい揺らして俺を誘惑する気か。諦めろ、俺は貧乳派だ」
「セクハラで訴えるわよ!アンタ!今日は直方会長とデートなんじゃないのっ?」
「だから迎えに来たんだ。朝起きたらつくしが居なくなってたからな」
「同棲?!」

痙き攣った会計と、飯塚をキラキラした眼差しで見つめている書記、怒り心頭の副会長は携帯を掴み素早くコールした。

「直方会長ですか?弓削田ですけど…はい、はい、居ます。目の前に」

何事か会話した彼女はキッと飯塚を睨み付け、

「アンタ!直方会長はマンションに居るって!アンタが散らかした山芋で汚れたベッドシーツ洗ってるそうよっ!」
「あ、そっか。下のコインランドリーに居るんだな。ったく、勝手に居なくなるから困った奴だ」
「アンタねぇっ」

窓の外で勢いを増した雨を見上げ頷いた男が居なくなる。ぷるぷる震えている副会長の傍ら、山芋で汚れたベッドシーツの意味を考えている会計の胃にまた穴が開いたらしい。




人玄人入り乱れ

「つーくーし、大雨洪水警報出てんぞ」
「昨日から出ていたと思うが」

いつもより賑わっているコインランドリーの中、乾いた服を畳んでいる長身の隣で備え付けの雑誌を読んでいた飯塚が、付けっ放しのテレビを指差す。

「あ、パンツも乾かしたのか。履き替えっから、ピンクのボクサー取ってくれ」
「此処で脱ぐつもりか」
「ソッコー洗えて一石二鳥じゃねぇか」

直方のマンションに半同棲状態で入り浸る飯塚は、風呂掃除とトイレ掃除、山芋の擦り下ろしは率先するものの、炊事洗濯には手を出さない。
雨模様でどことなく憂鬱な店内、回転するドラムを気にしながらも、直方の美貌に目を奪われている主婦や女性客の目が見開かれた。

「これが見付かんねぇから、黒履いてたんだよな。やっぱ俺のエヴァンガメオンはピンクのが落ち着くぜ」
「せめてトイレで脱げ」

何の恥ずかしげもなくジーンズを脱ぎ、黒のボクサーを脱ぎ捨てた男がピンクのボクサーを片手に満足げな息を吐く。

「ん、雨の日はジーンズが重ったるいんだよ。湿気か?脱いだら何か楽になったから、このままでいっか」
「良い訳ないだろう、捕まりたいのか」
「何でだよ。パンツは履いてんだから大丈夫だって」

無表情が問題だが、髪のメッシュ、そこそこ目立つ顔立ちから直方には負けるものの、飯塚も女性の視線を浴びていたのだ。無言の悲鳴を聞いた直方が呆れの溜め息一つ、バスタオルを飯塚に投げ付けた。

「もうすぐ終わるからそれを巻いて大人しくしておけ」
「えー、つくしの体にラップ巻くのは燃えるんだけど…。良し、TSUTAYAでラップ縛り24時借りるか」
「大人しくしておけ」
「亀甲縛りにされたつくしの踝ソックスを目で犯し、俺の羊の皮を被った狼にとろろを塗り込んで、かぶれるか被ってるか瀬戸際の曖昧さでシコりたい」

どうやら飯塚の股間は剥けていない様だ。山芋でかぶれたとしても、恋人がメンタムを塗ってくれるだろうと頷いた男は、冷静に乾いたベッドシーツを畳んでいる恋人に指を立てた。

「チンコにメンタム塗ったら勃起しちまう。つくし、今夜は燃える予感がするぞ」
「ちょっと君、お話しさせて貰えるかな?」

無言で速やかに居なくなった客達と引き替えに、笑顔のお巡りさんがやってきたらしい。




パムメールに怒る

「出会い系サイトに登録した?何故また、私と言うものがありながら…」

静かに怒っている直方の足元で、しょぼくれた飯塚が正座していた。ショボショボ呟くには、

「だって…登録したらAV見放題って書いてあったんだ。TSUTAYAに行かなくても見放題だったら、そっちのが良いと思って…」
「で?いきなり携帯買ってきたと思ったら、早速出会い系詐欺に遭ったと」
「…にゃんこ好きな18歳の大学生っ娘と仲良くなったのに!ポイントが足りなくなった所為で連絡が取れないんだ!だから俺はバイトする事にした。土曜と日曜はデート出来ない」

静かに怒っている直方が麗しの微笑を浮かべ、しょぼくれた肩をガシッと掴んだ。出会い系詐欺に遭っている癖に、全く気付いていない馬鹿男は架空の猫好き女子学生に目が眩んでいる。
にっこり恋人を抱き上げた男はそのままベッドルームに向かい、優しく優しくシーツの上へ飯塚を下ろした。


「なつき。…暫く此処から出られると思うなよ」

ぽっきり折られた携帯電話、恋人の鬼畜さを思い知らされた変態が新しい扉を開くのは、もう少し先の話だろう。




面器に浮かぶひよこ

「ぴよちゃん…」

やつれた飯塚が、ほかほか湯気を発てるバスルームにふらふら入ってきた。3日振りの風呂だが、何だか十年振りくらいに思える。

「つくしが…つくしが、エロだった。あんな、あんな、あんな事までするなんてっ!」

いやーっ!
と、ぶんぶん頭を振る飯塚が泡だらけのまま浴槽に飛び込んだ。浴槽の床で鼻を強かに打ち付けたが、そんな事には誰も構わない。
湯船に浮いていた罪なきヒヨコの玩具が宙を飛び、ぽちゃんと着地する。

「ちくしょーめ、やはり俺の天使だったのかっ、三日も監禁してくれるなんて憎いエロ天使めぇいいい!!!」
「君には道徳心と言うものが著しく欠如しているな」

洗面器のひよこが、頷く様に揺れていた。




倒しそうなアイラブユー


本当に、判らない男だ。

「なぁ、つくみん」
「…呼んだか?」
「もし引っこ抜かれたら、俺について来いよ」

何の話だと無言で眼鏡を押し上げるが、彼は猫雑誌を捲りながら上の空だ。
何故上の空だと判るかと言えば、表紙のアメショーが逆様だからとしか言えないだろう。またとんでもない事を企んでいるに違いない。

「なぁ、ツクシーニュ」
「…尋ねるが、君は私の本名を覚えているか?」
「あ?飯塚筑紫だろ」
「直方筑紫だ。飯塚は君の姓だろう」
「そんな事より、何で太陽が沈むのか。今はそれが議題だろ」

いつからそんな哲学的な会話になっていたのか。本当に、無表情でマイペースを地で行く彼を理解出来ない。

「それは、地球が自転しているからだ。地動説と言う」
「何で人は進化するんだろう」
「どうした?」

いよいよ可笑しい。
纏めた書類の上に外した眼鏡を放り、眉間を揉み解しながらネクタイを制服のボタンを外す。
理数科は学ラン、普通科はブレザーと言う学科別制度がある我が校では、特進科だけどちらを着ても構わないアバウトな権利が与えられている。大抵ブレザーが多い中、目の前の恋人は毎日着ている制服が違った。

理由は、母親がブレザー、父親が学ランで意見が別れたからだそうだ。そもそも特進科を受験したのも、両親が制服を巡って喧嘩するから仕方なく、だと言うから益々意味不明である。
珍しい我が校の特進科は、偏差値もそれなりに高く、倍率も高い。仕方なく受験するには不相応だ。

親が親なら、と言うか。


「夜なんか来なければ良いのに…」
「本当に、どうした?熱でもあるのか?」
「メンタムもとろろもブームが去った。あんなもので喘いでいた昔の俺が懐かしい」

毎回一点差で彼に勝っている、自分の無駄に回転効率が良い知能を僅かばかり嘆いた。
彼は単に、変態としか言えない己の性癖による欲求不満を解消したいだけだ。その恵まれた知能をもう少し勉学に注いでいれば、首席など容易く奪われるだろう。

「言っておくが君は喘いでなどいない。使いたがるだけだ」
「つくし。もずくとらっきょ、どっちが良い?」
「体には良さそうだが、セックスの道具としては推奨出来ない」
「セックスとか言うな恥ずかしいだろ、エッチと言え、エッチと」

どう違うのかは全く判らない。
彼には彼なりのこだわりがあるので、突き詰めるだけ無駄だ。下手をすれば会話が会話として成り立たない。

「良し。新作を見付けるまでは、普通のエッチで我慢するか」
「大半の人間はそれを我慢とは言わない」
「でも、つくしに主導権握らせたら、言葉攻めとか全身舐めたりとかすんだろ?お前、軽くサドの変態だもんな」

無自覚ではないので沈黙したが、変態はお互い様だと言いたい。然しながら彼には変態の自覚がないので、やはり突き詰めるだけ無駄だ。

「はぁ。舐められるより舐めたい。抜かれるより抜きたいんだけど。…まぁ、仕方ないか」

がりがり頭を掻きながら雑誌から手を離した男が立ち上がり、近付いてくる。近眼なので良く判らないが、黄昏に照らされながら微かに笑っている気がした。


「たまには普通に騎乗位してやるくらい、お前を愛してるからな俺は」

残念ながら彼には彼なりの『普通』が存在するらしい。組み伏せるからこそ喜ぶ人間が存在する事を身を以て教えるのは、太陽が沈んでからでも遅くはないだろう。
今はただ、


「そんな俺は俺を一番愛してるからお前は二番目だ。喜べ、つくし」

遠慮なく落ちてくる口付けを大人しく受けるだけ。それ程には自分は彼を愛している様だ。
残念ながら、自分が最も愛しているのはそれを自覚している己自身なのだが。


それはお互い様だろう。

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