可視恋線。

いつまでもあると思うな親と初心

<俺の嫁は豆類最強の刺客>




「あっ、ふぁあ、んん!はぁ、はぁ…うっ、うぇ、うぇーん」

偶然出逢って、揉まれ揉まれて叩き上げられて、理由はともかく恋に落ちる。第一印象の最悪さを上回る最悪な障害物を乗り越えた先に、幸せは待っていた。

なんてね、ちょっと哲学的な事を言っちゃったかな?


「…気持ち良すぎて泣いてる訳じゃ、ねぇよな?」

大好きな人と愛を育み続けて一年以上。
今じゃコンドームの使い方も大人の下ネタも知り尽くした、アダルトな松原瑪瑙17歳です、お久し振り!

朱雀先輩は初めて出逢った時より益々大人びて、かっこよすぎる。自慢の彼氏です!えへへ。

「ひっく、うぅ、俺、俺、明日は絶対っ、な、泣かない様に頑張る、から…っ!うぇーん!やっぱ無理ー!今日から泣いてるー!」
「これが今生の別れじゃねぇ。寧ろこれから先、同じ墓に入るまで一緒に居る為だ。…判ってくれるか、マーナオ」
「う、うぇ、うん…っ、わ、判ってるよ…!ぐすっ、朱雀せんぱぁい、超愛してるー!」
「俺もだ。納得したなら鼻水とぶちまけた豆乳拭いて、もっかいヤるぞ」

忘れてる皆に紹介しとくけど、俺の彼氏は大河朱雀、強面系イケメンで言葉遣いも目付きも宜しくない、元金髪の不良。今は真っ黒な髪と黒いカラコンで何処に出しても恥ずかしくない、ザ紳士な18歳。世界一俺の体を知り尽くしてる人。


昔は手が早すぎてセフレさんが沢山居たこんちくしょうだけど、俺と付き合い出してから最初のハロウィンパーティーの時に、悪魔っ子に扮した俺が、朱雀先輩に虎耳と首輪とリードを付けて学園中を歩き回ってからは、朱雀先輩に近付く輩は居なくなった。
その節は山田先輩、的確なアドバイスを有難うございました。


それから丸一年が過ぎて、二度目のクリスマスもラブラブ。
雪が降らない代わりに、12月なのに関東の気温は20℃を越えてたらしい。俺と朱雀先輩のラブファイヤーがもたらした異常気象だって、暑がりなうーちゃんから言われたけど、俺らにそんな力はないよ。
でもそのくらい燃え上がるラブラブだってのは、否定しないけど。

「ふぁ。…ずちぇ、先にチューして…んっ」

見つめ合うとキス。
見つめ合わなくてもキス。
寝てる時でも無意識にキス。
喧嘩してたってキス。キス。キス。

ペアグラス?一緒のグラスでジュースを飲むのに二つも要らないよね?ペアルック?お揃いの制服で年中ラブラブです。ネクタイを抜かれたりネクタイを弛めたりする、恋人同士。つまりシコシコされたりシコシコしたりするアダルティーなアベックってこと!
あ、因みにアベックはカップルって事だからメモっておいてね。

お揃いの指輪は俺がお小遣いを貯めて、去年のクリスマスにプレゼントしたもの。お揃いのペンダントトップの宝石は、朱雀先輩が『瑪瑙』、俺がルビー。
どんどん砂糖を吐いて下さい。寝ても覚めてもラブラブです。

お風呂は背中を流しっこなんて当然、逆上せても逆上せても諦めずに盛り上がりまくってエッチしたのも、何度目か。



「ふぅ、うぇ」

朱雀先輩。
でもそろそろ俺、やっぱり逆上せちゃいそうかも。

「…まめこ?おい、まめこ?」
「い…逝っちゃいそ………あの世に。ゲフ。」
「ちゃっかりしろっ、まめこー!!!」

それを言うならしっかりしろ、でしょ?
もう、だからちゃんと勉強しなさいって言ったのに、朱雀先輩ってば。俺とラブラブする時間が足りなすぎて、最近また日本語が可笑しくなって来てる。

「ふぅ、はぁ、はふっ。す、朱雀せんぱぁい。目が、ぐるぐるするよー、吐いちゃう。おぇ」
「こんな時にポカリのストックがねぇ…!アクエリで我慢してくれマーナオ、飲め!…おいっ、寝るな死ぬぞ!」
「熱いのか暑いのか、判んなーい…」
「まめこ!俺を残して逝くなまめこー!」

とまぁ、これが俺達の日常だった。
だけど物語はこれで終わらない。

逆に、エンディングこそがスタートラインだったりするんだよ?なーんて、ね。






























ラウンド1:
 あの頃は良かったとほざく男の女々しさよ。















物語はエンドマークで綺麗に終わる。
ピリオドの向こう側はいつも、読み手の想像に委ねられるばかり。千差万別、伏線なのか違うのか曖昧な文章の向こう側に、作者はいつも知らん顔。


ハッピーエンドもバッドエンドも、現実ではその先があるって事を、知ってますか?



事実は小説より奇なり。
妄想ほど、現実は甘くないかも知れない。なーんてね。










「以上、卒業生諸君への激励を以て、祝辞を終わります。理事会代表、嵯峨崎零人」

ぐすぐすと、号泣してる俺の泣き声が響きまくる大講堂。
卒業生の皆さんは誰も泣いてなくて、イケメン理事の挨拶も耳に入らないのか、皆、じっと卒業生代表を見つめてる。
俺が鼻を啜る音がチーン!と響いた。


『…続きまして、本年度卒業生代表三年生帝君、遠野俊より卒業の言葉』

ぐすんぐすん。
涙も鼻水も止まらない俺は、こんな時だけは死ぬほど格好良く見える遠野会長の凛々しい姿を見つめ、手を一生懸命叩いた。
ドン引きしてる皆からチラッと見つめられたけど、昔大ファンだったからか、こんな時は拍手したって良い。だって、最後だもの。

「う、う、うわーん!遠野会長ーっ!やっぱり素敵ー!!!」

壇上に上がった遠野会長が一瞬、俺に向かってにっこり笑ってくれた。あちこちからブフッて鼻血を吹く音が聞こえる。

仕方ないよ、俺もブフッて出たもの。


「卒業生代表、遠野俊です。皆さん卒業おめでとう。進学する人も居れば、これから社会に出ていく人も居るでしょう。此処まで共にあった仲間達、此処で進む道はそれぞれ別れますが、常に思い出は共にある事を忘れないで下さい」

やっと、あちらこちらからクスンクスン泣き声が漏れてきた。朱雀先輩と藤倉先輩は同じタイミングで欠伸なんかしちゃって、隼人様は堂々と寝てる。後ろ姿でも判る、遠慮ない態度だ。図々しいんだから。

先輩方を見送ったら最上級生になる俺は、まだちっとも実感がなくて、良い思い出なんか殆どない遠野会長の甘ーい声に聞き惚れつつまた泣いて、呆れた表情のかわちゃんから『煩いよ』と足を踏まれた。地味に痛い。
去年から風紀委員会に入ったかわちゃんは、最近『鬼子母神』って呼ばれてる。子供を殺した怖い怖い神様の名前だ。でも、最後は改心して優しい神様になったとか何とか。

「それはともかく、今季まで3年間左席委員会会長を務めさせて貰ったが、この場を借りて後継者を発表したいと思う。二年Bクラス、松原瑪瑙」
「ふわぁい?」
「おいで」

え?
遠野会長が壇上から手招きしてて、ざざっと皆の目が俺に刺さる。保護者席から「マーナオ!」と言う複数の声が合唱したけど振り返る余裕なんか勿論なく、キョロキョロと辺りを見回した俺は、怖い顔の朱雀先輩と目があった。

「す、朱雀せんぱぁい…!どうしたらいいのっ?!」
「無視しろまめこ!また騙されんぞ!」

パシャパシャ、保護者席からフラッシュが飛ぶ。
わざわざ中国から朱雀先輩の卒業式典にやって来た、パパ…朱雀先輩のお父さんと、四家と呼ばれている、大昔から大河家に仕えてきてる王(ワン)家、李(リー)家、仆(プー)家のそれぞれの大老(長老とか当主みたいなものらしい)の皆が、何故かマーナオコールしてた。

「おぉ!見たか兄者、我らのマーナオが左席委員会に選ばれるとは!流石はマーナオ!」
「何とした事だマーナオ!最近まで香港と台湾の違いも判らなかったマーナオが、うっ!私は涙で前が見えぬぞ兄者!」
「マーナオたんギザカワユス。おじたんマーナオたんの為に700万の映像編集機材を秋葉原で爆買いしちゃったぞい。マーナオたん、早くお嫁においで、チャイナドレスで」
「ふ、悉く当然だわ。マーナオは我の娘だぞ。ふ、ふは、ふはははは!」

卒業するのは俺じゃないんだから、撮るなら朱雀先輩にして欲しいなぁ。つーかチャイナドレス?…700万?!え?!どんな機材なの?!こっわ!爆買い、こっわ!そんなお金があったらもっと違う事に使えばいいのに!

例えばエビチリ食べ放題とかさ!

「え、エビチリ何人前ー?!」
「狼狽えんなまめこ!シカトだシカト!」
「で、でも、この状況で無視とか俺には出来ないぃい!えーん、朱雀先輩、助けてぇ!」
「メニョたん」

また、マイク越しに、神様みたいな声。

「左席委員会の権限があれば、悩みは解決するぞ」

ピクッと。
動きを止めた俺は朱雀先輩から目を反らして、ガタッと椅子から立ち上がった。呆然としてるクラスメートの隙間を縫って壇上へ上がり、マイクを譲ってくれた遠野会長に頭を下げる。

キリッと、俺は顔を引き締めた。

「ただいまご紹介に預かりました、二年Bクラス松原瑪瑙です。遠野会長の名に恥じない努力をしていきますので、皆さん、宜しくお願いします」
「まめこ?!」
「きゃー、メニョたーん!」
「「「万歳!マーナオ万歳!万歳!」」」
「マーナオたん、ワンソエー!!!!!」

ガタッと立ち上がった朱雀先輩の顔は、見ないようにした。怖くて見れません!
こそこそっと遠野会長が俺に耳打ちして、俺はまた、キリッと顔を引き締めた。保護者席から「可愛い!」と言う声が飛んできたけど、敢えて言わせて貰う。

かっこいいと言え。


「この場を借りて、左席委員会会長権限で新年度役員を指名します。ついでに中央委員会の観察とか言われてもちょっと俺には無理なので、中央委員会をリコールします。新しい中央委員会役員も俺が決めます」

ざわっと皆がざわめく。ブーイングが凄い。神帝陛下は良く判んないけど、光王子様は真顔で頷きながら拍手してくれた。今まで御苦労様です。

「文句があるなら遠野先輩に言って下さい」
「俺のメニョたんに文句がある奴は掛かって来いやァ!」

俺が言うのと同時にしゅばっとサングラスを掛けた遠野会長が壇上に飛び乗って、ブーイングは消えた。その代わりカルマコールが煩くて、式典どころじゃない。

「中央委員会三役を任命します。まず会長は、二年Sクラス、羽柴君」

村瀬さんとユートさんは『姐さん』コールでピューピュー口笛吹いてて、白百合様は山田先輩を高そうなカメラであっちこっちから撮りまくってて、何か辛い事を思い出したのか目頭を押さえる光王子様を紅蓮の君が慰めてる。
シゲさんは夜遅くまでバイトの屋台を切り盛りしてたから、うつらうつらしてるみたいだよ。

「副会長に、二年Bクラス宇野君」

何と村瀬さんもシゲさんも、朱雀先輩が昔融資した帝王院の入学金とか授業料とかの借金を全部返済したんだ。朱雀先輩は要らないって言ってたけど、実は朱雀先輩も中等部の頃からずっと、実家から仕送りはして貰ってないの。結構あれこれ稼いでるんだよー。
村瀬さんもシゲさんもそれを知ってるから、舎弟じゃなくて友達になりたいからこそ返すんだって事で、朱雀先輩は渋々受け取った。何か照れてた気がする。

「書記、二年Bクラス中川君」
「はへ?!俺?!ちょ、松原?!正気ですか?!何で俺っ?!」
「漫画が描けるからです」
「どーゆー事ぉおおお?!」

シゲさんの卒業後は都内の専門校に通いながら一人暮らし、村瀬さんは国工大に合格して、羽柴のお母さん…つまり村瀬さんを産んだお母さんの家に居候しながら通うんだって。
お金持ちの社長さんと再婚したお母さんは、去年病気で旦那さんを亡くしちゃって、一人暮らししてるらしい。何だかんだで心配してるんだね、村瀬さん。冬休みに会ってきたって聞いた時は、ババア死ぬほど元気でうざかったわー、とか言ってたけど。

「会計は、二年Sクラス、ザイード君」

羽柴が俺を睨んでる。
うーちゃんはゲラゲラ笑って、エスニックな雰囲気が漂うイケメン王子様が片手を挙げた。苦しゅうない、善きに計らえ、みたいな感じ。

「後は、左席委員会の役員ですが、匿名性を重視して非公開にします」
「まめ、こ…」

呆然としてる朱雀先輩の呼ぶ声が聞こえた気がしたけど俺は、敢えて無視した。

ごめんね、朱雀先輩。
それもこれも全部、朱雀先輩が好きだからなの。怒らないでね。


「…遠野会長、本当に副会長になってくれるんですよね?」
「任せておけメニョたん、俺は最上学部に進む。メニョたんが卒業するまでの一年間はまだまだハァハァする予定だからな」

壇上の下でガシッと手と手を取り合った俺達には、多分、誰も気付いてない。いつの間にか起きてた隼人様が山田先輩から何か耳打ちされてから、笑顔で俺を見つめてきた。
怖すぎる!怖すぎるから隼人様は庶務にしよう!扱き使ってやる!

…嘘です。





「あーあ、最後の最後までやってくれるね、天の君は」
「海陸、僕は頭が痛くなってきた…」
「かわちーだけ狡いよ、風紀委員会に入ってるからってさ」
「あのな、狡いも何も、」

「引き続き、この場を借りまして風紀委員会より人員交替をお知らせします。永く兼任してきましたが、私、叶二葉より指名を以て挨拶と代えさせて頂きます。新年度風紀委員会局長、二年Bクラス、川田有利。以上」

「は、はぁあああああ?!何を考えてるんだあの方は?!」
「あっはっはっはっ、ざまーみろ、かわちー!」











さてさて。
新たな春一番が吹き荒れました。

何せ中央委員会と左席委員会にBクラスから選ばれるなんて事、過去をどんなに遡ってもなかったからね。



これからどうなる?
これからどうする?



新しい春の息吹は、咲き誇る桜をゆらり、ゆらり。





「ず、ずちぇ…、ひっく、や、やっぱり行かないでぇ。寂しいよぉう、うぇーん、行っちゃやだー」
「泣くなまめこ、大丈夫だ、毎日電話する。メールもだ。GWには遊びに来い。ほら、すぐじゃねぇか。…な?」
「ひっく、ひっく、う、うん、ぐすっ、浮気したらすり潰すからっ!噛み千切るからー!」
「する訳ねぇだろうが!くっそ、やっぱ行きたくねぇ!今からホテル行くぞまめこ!」
「う、うん、でも今の俺、もしかしたら先輩を閉じ込めて喰い千切っちゃうかも知れないけどっ」
「危ない奴だぜマーナオ、だが愛してる」



いつまでも続くと思っていた俺と先輩のラブラブ学園生活はこの日で終わりを告げ、俺の大好きな朱雀先輩は、お家を継ぐ為の勉強を始める為に、中国へ帰国していったのでした。





泣いて、泣いて、泣いて、泣き疲れた俺のその後は、次の機会に話します。


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可視恋線。かしれんせん
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