メインアーカイブ

最終更新2021/10/15(詳細はUPDATE)

オタクと美形の1日

ほら、良く言うじゃねぇか。


惚れた弱味とか何とか、遠回しに自分が馬鹿だと証明してる様なもんだ。
まぁ、例に漏れず、人間なんざ脳の造りも生きてる世界も同じ。人類皆兄弟っつーのは強ち嘘でもなさそうだ・と、此処最近望まずとも痛感している俺、16才の秋。

人肌が恋しい季節だ。



「あーーーっ!!!」

惚れたもん負け、良く聞く話だが。俺らの場合、先に惚れたとか言う区分がない。よくよく思い返せば告白らしい告白をした記憶も、された記憶もない訳だ。

「新刊出てるー!」

若さ故に有り余る欲を動力源に、勢いその場の雰囲気に流され、今考えれば二人のファーストキスは使用済コンドームがゴミ箱で鎮座した時だった。
それも3つ。素晴らしい体力に自惚れたくもなる。

「おい」
「ふぁ! あれってカップル? カップル? ラブラブ? あの大きい人カッケー。隣は美人! 美人は狙われる。電車だと痴漢。触られる。もしかしたら舐められたり、それ以上も? 彼氏は下の異変に気付かない。ヤバイ?」

3発もカマした後とは思えないくらい、拙い口付けに笑ったのは滲む様な照れと、今更ながらに気付かされた愛情と。
ああ、ハマったなハメた後だけに・などと、自分より僅かに小さい体を抱き締め苦笑ったものだ。下品にも程がある。年相応の純情と年相応による下ネタは、セカンドキスで無に還った。

知識と本能総動員を要したディープキスは無駄に長く、呼吸方法を知らなかった馬鹿な男は窒息寸前で、その青冷めた顔さえ可愛く見えたと思う。
これぞ恋は盲目。
そんな言葉に頭をヤられつつ、4度目の避妊具を掴み体力の限界を無意識に目指し。途中から記憶がない。どれだけだ。

若さ故の過ちでは済まされない初体験は、濃厚に記憶されたと言っておこう。


「…おい」
「彼氏が痴漢倒す。駅員に引き渡す。二人は燃え上がる。絆がより深まるラブラブ。ちゅーする? ホームで? 駅員さん見惚れて思わず痴漢を逃がしそう。ヤバイ? ちょっ、待てよ! キムタク風に追い掛けろ」
「………」

月日は流れ、と言う程でもないが、言いたくはないが体の関係から始まった恋人生活はもうそろそろ2ヶ月を迎える。初めての交際としては順風満帆な方ではないだろうか。数日で破局するカップルなどザラだ。
その日限りも良くある話。

「あ! あの学生、チャリ2ケツ。カップル…! 写メっ! 漕いでる方の兄ちゃんワンコっぽい。可愛い! 後ろの子は女王系? ツンデレ? 健気受けでもイイです。好物です」

つまり、俺らは世に言う『ラブラブカップル』である。付き合い初めが夏、寒くなり始めた秋だろうが不景気に寂れた商店街の中だろうが、何をしても燃え上がる時期だ。
汗臭い部活帰りの、デートと言うには安普請な寄り道も愛を深めるスパイスになり。男二人故に堂々と手を繋ぐ事も出来ない分、精神的に絆を強めて、家族の居る家の自室で声を潜めながら繁殖性のない行為に励むプランが妥当だろう。

女相手なら餓鬼が出来てめでたいが、男相手なら気持ちだけ深まる、それで良い。現実、高校生に妊娠は恐怖の呪文であり避けて通りたい単語だ。その危険もなく愛だけ深められる俺らは幸せと言えば幸せと言えなくもない、のだが。



「わー! あの美形兄ちゃん典型的な俺様路線ーっ。ああ言うのが生徒会長だったりして、平凡顔の新入生に惚れたりしてくれると良いのになぁ!」
「…」
「ああ、でも副会長は美人腹黒の猫被りで、会長と主人公を奪い合うんだょ。
  平凡なのに何故か好かれる主人公! 美形達には信者が居て、陰湿な苛めに遭うんだ。そして犯されそうに…! くそっ、俺が殴り殺してやらァ!」
「………おい、」
「でも寸前で会長が助ける。やっぱり愛のないエッチは駄目だ、うん。総受けでも本命以外とエッチするのは駄目です、うん」
「いい加減俺の話を、」
「愛のないえち反対?」

きゅ、と。
袖を掴まれて硬直する。11cmの差がもたらす上目遣いと言う名の副産物と、何の計算もなくこてんと傾げられた首が、普通なら男子がやっても気色悪いだけなのに。

然も相手は178cm、アイアム189cm、暑苦しい。


「愛のないえち反対?」
「え、いや、まぁ…」

己の過去を振り返り、素直に頷けない皮肉さ。益々ぎゅっと袖口を握られ、心成しうるんだ瞳&11cmの差が織り成す奇跡+愛の力で、ああもう、何でも許してやりたくなる。

「無理矢理襲われるの、好き?」
「男には征服欲っつーもんが、」
「俺襲われる。縛られて口塞がれて知らない男達に触られる? 気持ち悪いのに突っ込まれる。ヤバイ? 好きじゃないのにえちするの、や。俺総受け、愛のないえち賛成?」

自分の事は棚に上げて、迂闊にも強姦されている恋人を思い浮かべ眉間に皺が寄った。そんな場面を目にしたなら犯人達の命の保証は出来ないだろう。
殺す、犯す、もう一度殺してトイレに流してやる、全員。


そんな不穏な心境に気付かない恋人は輝く目で「あっ、その顔『きちくどえす』っぽいな!」と喜んだ。
言葉の意味は知りたくないが、無意識に緩んだ頬の筋肉は笑みを象る。


「………愛のないセックス反対。」
「おう!」

愛故に盲目になってしまった2.0の視力には、「これ誘ってんだよな…?」としか映らない。周囲の人々にはムラムラ中の雄でもその微笑みのお蔭で「素敵!」と映る。

平和だ。



「そんでー、会長は俺様なのに汗だくで服乱れてて、主人公をぎゅっと抱き締めるんだ。うん、いい。寧ろそれじゃなきゃ許さん」

いよいよ下半身に集まる愛には気付かない恋人に、やはりアレは無自覚か・と、遠い目で在らぬ方向を見つめる。
その間も、興奮冷めやらぬ男のはしゃぐ声は継続していた。此処は萌え集う異世界乙女ロードでもなければ、酔っ払い溢れる新橋のストリートでもないのに。

擦れ違う人達は皆怪訝げだ。
まず騒音を発し続ける男を不審げに一瞥し、その隣の恐ろしく整った容姿を持つ男に目を奪われて。最終的には、「どう言う関係だよ?!」と内心ツッコミ三昧。良くて友達、悪くて脅されて連れ回されている美形、と言う認識だろうか。

恋人関係だデートだ放っとけ畜生。…言えたら楽なのに。


「ああっ、あっちの人も俺様っぽいー! もう一人の俺が追い掛けろと命令してる。尾行だ」
「ちょっ、おい!」


どうも愛を深めたいのは俺だけではないのか、と。現実から目を離したくなる、腐男子を恋人に持ってしまった俺は休まる暇がない。

「萌えは現場で起きてるんじゃないっ、妄想の中で起きてるんだーっ」
「待てって!」

違う男を追い掛けるなと言うべきか、俺を置いていくなと言うべきか。
それとも買ったばかりのBL漫画と小説が詰まった袋(推定5キロ)を、俺に持たせたまま行くなと言うべきか。


「ンの、馬鹿オタクが…!」

可愛さと行き場のない性欲余って憎さ百億倍、と言うべきか。どちらにしても、






悩みは切実な割に、情けない。


オタクネタ。PCサイトのものを縮小改編。

- オタクと美形の1日 -
←*めいん#
[1/54]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -