「ア?
Hey、会長何処行った?」
戸口で頭を打ちながら入ってきた長身が、純度の高い煌めく金髪を掻き上げ手近な生徒へ声を掛ける。
話し掛けられた生徒は背を正し頬を染め、ガタリと立ち上がった。
「きゃあっ、副会長っ!か、会長なら先程学園長室へ向かわれました!」
「Why?あのセクハラ野郎に何の用だ?」
「はっはいっ、珍しくご機嫌麗しいご様子でお出掛けでした!
学園長は以前より会長をご寵愛なされていましたのでっ、遂に本願を遂げられるのではないかと!」
益々頬を赤く染め上げた生徒へ眉を寄せ唇を痙き攣らせた男は額に片手を当てると、
「わざわざ抱かれに行ったのか、アイツが?
…Oh my god、明日はハリケーンか」
わざとらしく嘆きながら胸元で十字を切った。
「お気を確かに副会長っ、会長は副会長を愛しておられる筈です!」
「そ、そうだ!学園長なんてただの好色っ、我らの会長に魔の手を伸ばそうだなんて許せない!!!」
他の生徒が憤った様子で立ち上がり、場は一気に険悪なムードに染まる。
長身を持て余しながら見た目ヤンキーな彼は頬を掻き、短い息を吐いた。
「カズカがあんなオッサンに抱かれる筈がなけりゃ、あんなオッサン抱く筈もNothing。…何かオネダリと言う名の恐喝に行った、ってトコだな」
呟いて彼は天を仰いだ。
明日から折角春休みだと言うのに、外は生憎の雨模様である。
「洗濯物が乾かないゼ、shit」
「あっ、副会長っ!会長が戻られましたっ!」
「やはり会長は副会長の事を…!」
「………何だ、この騒がしさは。」
しなやかな長身がシャープな眼鏡を押し上げながら入ってくる。
何処か愉快げな表情が正に恐怖だ。
「…カズカ、悲しいコトにご機嫌麗しいみたいだな」
「ああ、何の粗大ゴミかと思えば貴様かロイ。邪魔だ視界から消えろ」
「お前なんかシね、シんでしまえばイイ」
彼の名はルーイン=アラベスク=アシュレイ、西園寺学園高等部所属、生徒会副会長だ。
そしてシャープな眼鏡が嫌味な程に似合う男が、西園寺学園の誇る生徒会長である。
「会長、お茶は如何ですかっ」
「会長っ、お菓子は如何ですかっ!」
「下級民族がこの私に話し掛けないでくれたまえ。気分が悪い」
「「きゃ〜っ、会長、素敵です!」」
「日本は怖い国デス…」
「ああ、そうだ。ロイ、至急来年度の寮編成リストを手配しろ」
「Why?アレならもう理事会に、」
「至急改竄する必要が出来た。つべこべ抜かさず持って来い」
「改竄?!な、それが会長の台詞か…」
「私の可愛い子猫がやってくる。…住み心地の良い部屋を用意してやらねばなるまい」
妖艶な微笑を滲ませる男に世界が凍り付いた。
「まさか、お前…」
「高等部入学者リストに一名追加だ。ああ、裏口入学だが気にしなくて良い。
私の決定に反対出来る者など居ないからな。」
ああ、波乱の予感。