翌日。
エヴァンは乗ってきた市民用シャトルを降りて歩きだす。
アプリリウスではお互いに目立つので、マティウスの空港で待ち合わせる約束をしていたのだ。
イザークはアプリリウスまで迎えに行くと言って聞かなかったのだが、それは丁重にお断りしていた。目立ってしまえば厄介な目に遭うのは圧倒的にイザークのほうだ。
エヴァンが歩きながら周囲を隈なく見回していると、すっと後ろから手を取られて、思わず身構えかけた。
「い、イザーク…」
「すまない、驚かせたか?」
それでもイザークはエヴァンの手を放さずに、さりげなく傍へと引き寄せてくれる。
薄青い瞳が、喜びを浮かべているのが見えて、エヴァンも緊張がほぐれる。
「いえ、大丈夫です。迎えて下さって、ありがとうございます」
「気にするな、おれがやりたくてやってることだ。でも…見違えた」
可愛い。
微笑んで、そんな言葉をごく自然に告げるイザーク。エヴァンは顔が熱くなるのを感じて、思わず彼から目をそらしてしまった。
だいたい、イザークのほうも軍服ではなく、少しラフだけれどシックにまとめた格好で、趣味の良さが彼の魅力をより引き立てているような気がしてならない。
「あー…ど、どこか行きたいところはあるか?」
「え?」
特には、と言い出しかけてイザークのほうを見上げれば、彼は目の端を若干赤くしてそっぽを向いていた。
まさか照れてるのだろうか、と気がつくと同時に、エヴァンはイザークが可愛く思えてしまう。
どうやら緊張しているのは、お互い様のようだ。
「…と、とにかく出るぞ」
「あ…はい」
ぎゅ、と強く握られた手からはイザークの体温と不器用ながらの愛情表現のような、そんな心持さえ伝わってきて、何だか甘酸っぱい気分になる。
そのまま二人は手をつないで、街中へと歩き出した。
プラントの空気は、少し秋めいた感じがするように調整がされていた。
もともと人工的に作られた土地だ、季節などないのだが、技術力で紅葉させたり、気温を低めに保ったりして情緒らしいものを演出している。
そんなリアルな事情を知らないわけではないが、はらりと時々舞う落ち葉さえ、このデートに協力してくれているようで、どうしても気持ちは高揚してしまう。
―――第一、好きになった女と一緒に手をつないで歩いていて、気分がよくならない男がいるものか。
イザークの隣を歩いているエヴァンは、初めて出逢ったときのようにワンピース姿。キャメルのコートからのぞくワンピースが清楚な白で、控えめではあるものの、彼女が着飾ってきてくれたことがわかって、嬉しかった。
明るい茶色の髪が、サテンの白とエヴァンの白い肌を際立たせていて、今日の彼女には普段見る鋭い美しさよりも、年相応な可愛らしさがあるのだ。
どきどきと嫌に大きい己の拍動が、握り合った手から伝わってしまいそうだった。
「…エヴァン、普段はどんな店に入るんだ?」
「あ、その…よく、分からなくて。こういうところには、あまり来ないんです」
二人が歩いているのは、空港から出てすぐのところにあるショッピングモールだ。
ウィンドウにアピールされているのは、可愛い服やバッグ、靴といった服飾品が主である。
普通の女ならば、見慣れたものだろうが、生憎エヴァンにはあまり縁がなかった。
「なら、入ってみないか?」
「えっ、でも…いいんですか? 貴方と一緒なのに…」
「一緒だから、だ。似合うものがあれば買ってやる」
「そ、それはだめです…!!」
遠慮するエヴァンに、イザークが苦笑する。
エヴァンならきっと何でも似合うのだろうが、彼女の魅力を昇華して引き出せる服がもっとあるはずだ。
「あまり気にするな。デートならそうするものだろう?」
「そういうもの…なんですか?」
「ああ、そういうものだ…というか、男がそういうものなんだ、が」
もちろんエヴァンが嫌ならやめる、と少し早口で言う、イザーク。
エヴァンは握った手をそっと見下ろした。
ここは戦場ではない。ある意味で未知の領域に踏み込んでみるのも、イザークと二人でなら大丈夫な気がした。
これは「デート」なのだから。
「じゃあ…入ってみます。貴方と一緒なら」
「…無理してないだろうな?」
「大丈夫ですよ」
エヴァンが微笑んでみせれば、イザークも安堵したように優しく微笑した。
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