さっきからぎゅうぎゅうと俺の背中にひっついて離れない、このDIOとかいう名の迷惑粗大ごみをどうにかしてほしい。冷静に考えてみればこいつは100歳をゆうに越えるじじい吸血鬼だ。がきみたいにべったりしやがって、気色悪いったらありゃしねぇ。
「なぁ…いいだろう?承太郎よ。別に減るものでもあるまいし」
「いいかげんにしろ離れろパツキン野郎。うっとおしいぜ」
うぅ、と低く唸っておれの肩に軽く噛みつくDIO。ここ最近こいつのかまってアピールがはげしくて、ヤらせろ、ヤらせろともの言わぬ瞳が四六時中語り続けている。どれだけ冷たく突き放してもベッドの上からさりげなく突き落としてもひっつきむしみたいに俺にくっついてきやがる。おれは生まれて17年間こんなに厄介な虫をみたことがない。
……そんなDIOだが、非常に意外なことに実は5秒以上目を合わせると頬を赤らめてかおを背けてしまったり、さりげなくおれの腰にこすり付けてきやがる底無しの性欲の象徴をたまに刺激してやると「あっ…」と声をあげてふとんにもぐりこんでしまったりだとか、見た目にそぐわず可愛いところが
ある訳もなく、 やっぱりDIOはDIOであり、DIO以上の何ものでもなかった。
「承太郎。」
「なんだ」
「呼んだだけだぞ?フハハ…何を期待した」
「死ね」
おれをからかうのがそんなに楽しいかよ。本格的にめんどくさくなってきたのでDIOの言葉はすべて黙殺することに決めた。
「承太郎、今やらせてくれるのなら今後は二度とこのようなことはしないぞ?誓ってもいいぞ?」
「………ふ、ふん、承太郎よ。強がっているのがバレバレだなぁ?我慢なぞしなくていい。早く気持ちよくなりたいのだろう?………」
「……………貴様…放置プレイで殺す気か…ふざけるのもいい加減にしておいた方が身のためだぞ…」
「…貴様ァ……怒るぞ?このDIOが怒りを抱くということがどれほど危険かわかっているのか?…………………」
先程まで絞めるほどつよい力で抱きついていたDIOだったが、無視を続けるにつれてだんだんと腕のちからが抜けていったのがわかった。あきらかにしゅんとなってしまったDIO。中々おもしろいからしばらく放置。
「承太郎…だまっていては貴様の思っていることがわからんだろう?…正直に言ってもいいんだぞ?私は笑ったりしない………」
得意の強がりもそこはかとなく元気がない。
「やるぞ……早く…準備、しろ」
全く。こいつのしぶとさには呆れる。常に喋りが上から目線なのは最高に癪だが、しかたない。今回だけ特別ということでこのくそ吸血鬼の誘いに乗っかってやることにしよう。ちゃんとこいつの耳に聞こえるようにたっぷり余韻をのこし、はあああああ、と盛大に溜め息をついてやると、DIOの身体がぴくと動き、その無愛想な面が期待に染まる。やっぱりおれはこいつに甘すぎなのだろうか?
「やれやれ。何を、やるんだ?」
明らかに目の色を変えたDIO。
必死に顔のニヤけを隠そうとしているのがバレバレで最高にきもちわるい平常運行のDIOが顔を出し、口許をもにゅもにゅさせながら全くもって素直とは言えない態度を俺に見せてくる。
「ふん、ようやくその気になったようだな…好きにさせてもらうぞ?」
「調子に乗ったらてめぇの粗末なもんを潰すぜ」
こうやって脅しとかないとこいつはすぐ調子にのっておれに気が狂うほど恥ずかしいことをさせるのであらかじめ予防線を打っておくのが正解だ。
そもそもなんでDIOがタチなんだ。そんなにおれとやりたいなら自分が突っ込まれる方になればいいじゃねえか。あんあん喘がされるおれの気持ちにもなれ、ばか。
「ほら何をしている、服を脱げ」
「チッ…それくらいわかってるぜ。てめぇも脱ぎな」
何度もくりかえしてきたやり取りだが、やっぱりすっぱだかになる瞬間はいつも恥ずかしい。何故なら、どっかの変態が俺の裸をじろじろ観察して気色わりぃ面でニヤけているからだ。
こっちみんな、どっかいけ、きえろ、しね。と言ってやりたいとこだがそれを言ってしまうと後々面倒くさいことになるのでお利口にしているしかないおれはとても哀れだで可哀想だと思わねえか。
「そこに転がれ。私が解してやろう」
「ん…」
実は期待している、だなんてことは恥ずかしくて口が裂けても言えねぇが、どうせこいつのことだ。おれの考えてることなんてお見通しなんだろ?ほんと、むかつくぜ。理不尽にもDIOに怒りを覚えていると、ローションでたっぷりと濡らされた指がつぷり、と後ろに入ってくる。
「ぅ……あ、」
「すぐきもちよくなるぞ。待っていろ」
最初だからどうしても痛くて、顔が歪んでしまう。あまりこいつの前で嫌そうな顔は見せたくないんだが、こればっかりはしょうがない。
壁を擦りながらくちくちと侵入してくる指に、無意識に中を締め付けている自分。DIOの次の台詞が容易に予想できた。
「ほぅ?…ここがきもちいいか?さっきよりも締め付けが強くなったなァ…」
「うるせぇ…くっ……あ、そこっ、もと…」
おれの中を完全に知り尽くしているこいつにとって、どこを刺激したらおれがどんな反応をするのかなど手に取るように分かるらしい。相変わらずのニヤけ顔を張り付かせながら俺のいいところをこり、こり、とつついてくる人差し指がうらめしい。DIOへの反抗心よりもきもちよさが勝り、でけぇ口も利けずに喘がされているおれを見て、こいつはまた、嘲笑うんだろう。にたにたと心のそこから愉しそうに。
「ここも触ったらどうなる?」
「あっ!……は、ぅ……んん、やぁ」
いきなり亀頭を刺激され、高く喘いでしまった。一気に顔に血液が集まってくるのが分かる。
DIOからぽつりと漏れた一言。
かわいいぞ、
そんなことを言うな、黙れ。
くそ、なんなんだこいつ、すげえはずかしい。いろいろな感情が混ざって、あたまのなかをぐるぐると回る。
あぁ、きもちいい。きもちいいからやめないでほしい。もっと奥を抉っておかしくしてほしい、これがおれの本心だった。これも結局DIOの思い通り。おれはDIOの手駒か。
「貴様、まだ声を我慢しているな?」
「ふ、ぅ……だ…って、恥ずかしい…から」
「嘘吐きな奴め。本当は頭の中でもっと恥ずかしいことを考えているんだろう?……例えば…こんなこととかなっ」
「ひあぁっ!……はっ、ばか…あぅ、あっ!」
本当に馬鹿だった。こいつはいきなりゆびを抜いて自分のもんを突き挿れてきたのだ。どうせ早く挿れたくて我慢できなかったから、適当な口実をつくってすぐにおれを犯してやろうと、そう考えていたんだろ?
おれにだって、てめぇの考えていることくらいすぐわかるぜ。
「ふはは……貴様…挿れてすぐいってしまうとは、どれ程このDIOに期待していたのかが伺えるなぁ?」
「なっ……!?あっ…………くぅ………てめぇ…」
くそ、くそったれが。また恥ずかしいところをひとつ見られた。どうして勝手にいきやがったおれの愚息め。自分でも気付かないうちにイくだなんて、勝手にイってしまうだなんて、どれだけ期待してたんだおれは。悔しいことにDIOの言葉は完全に図星で、口答え出来ずにどもってしまったおれは顔を赤くして悶絶するしかなかった。
「ふっ…恥ずかしいか?羞恥心で気絶しそうか?まだ早いぞ承太郎。まだ私は何もしていない」
「くっ……何も…しなくていい……からっ」
「この期に及んでまだそんなことを言うか……貴様の中はいいぞ…?熱くて、きゅうきゅうと締まって、私を離さない」
持っていかれそうだ____甘い吐息をたっぷりと絡めた低音でささやかれ、身体中の毛がぞわっと逆立つような感覚をおぼえる。そんな恥ずかしいことをバカ真面目な顔で言わないで欲しい。吐きそうになる。頭に血が昇って、阿呆みたいに心臓がばくばくと暴れて、すげえ恥ずかしくなって…嬉しくなって、吐きそうだ。いや、
寧ろ、とめどなくなく溢れるこの素直な感情を吐きだせたらどんなにいいだろうか。うそつきにはなりたくない。でも、俺は嘘吐きだ。
DIOに『すき』って言おうとすると、おれはいつも『ばか』って言う。『こっちにこい』って言おうとすると、いつも『どっかいけ』って言う。おれの言葉はいつもDIOを傷付ける。でもDIOはそれすらもお見通しで、『貴様のことは何もかもわかっている』みたいな態度をとられるのがまた最高にムカつくのだ。なんでおれのことを全部知ってるんだこいつは。なんで俺はてめぇのことを何もしらねぇんだ。
「DIO……すき…だ。……おれは……おれは、いつも、」
突然に降ってくるキスはやさしかった。たまらなく、柔らかで、切なくて、あまりにも優しさで溢れていて、なんだかDIOみたいな味がした。
おれの全てを肯定しているかのような、包み込むように寛大なその口付けは言葉を越えた何かを確実におれの胸に植えつけてそっ、と離れていった。
「いつも。貴様はいつだって私を想っているのだろう?」
「……ん、」
「ふふ………貴様は気がつくといつもこっちを見ているなぁ、あれは悪い癖だ。私は一日中、お前からの視線を感じながら過ごさなければならないのだからな。貴様、このDIOを殺す気か?死ぬぞ、私は幸せでいつでも死ねるぞ?」
最も、私が死んだら貴様も死んでくれるのだろうがな。
ほざきやがって。勝手に死ね。
頭が痛くなりそうな程完璧に出来上がったこいつの微笑み面をたぐり寄せて、今度はこっちから乱暴に口づける。鼻と鼻がぐしゃっとぶつかって、二人して笑いながらキスをした。
だいすき、すき、つらい、くるしい、ほら、こんなにおれはてめぇが好きだ。熱く絡まる舌がきもちよすぎて、軽くむせる。涙が出てきた。DIOは俺を笑わない。くそ、何でこういうときだけ笑ってないんだ。いつもみたいに「ばかだなぁ、」って言って笑えよ。なんだか嗚咽が止まらない。DIOが俺の唇を塞いでるから、恥ずかしい泣き声も聞かれたくない嗚咽も全部DIOのものだ。
ようやく解放されたとき、おれは初めて酸欠になっていたことを知る。酸素がほしかった。息を吸おうと思ったけど思うようにうまくいかず、苦しくて子供みたいにしゃくりあげることしかできなかったおれをDIOは落ち着くまで横でなだめてくれた。まだ挿ったまんまだったことに気づいたDIOがさりげなくおれの中から抜いてくれたのは、こいつなりの思いやりというやつだろうか。おれが泣くとこいつはこんなに優しくなるのか。嬉しくてDIOの胸に顔をうずめた。たくさん泣いて、何か訳のわからん台詞を吐きまくっていた気がする。それを聞きながらDIOは、たまに笑って俺の頭を優しく撫でてくれた。
***
どのくらい時間がたっただろうか。
1時間くらいずっとこうしていた気もするし、もしかしたら3分も経っていないのかもしれない。
「気がすんだか?」
「………あぁ」
ようやく呼吸が落ち着いてきて、まともに話せるような状態になったと思ったら、途端に襲ってきた睡魔。
「DIO………眠い…」
気持ち悪いくらい高く、甘えた声が出た。DIOはおれに凄くあまいから、どうせ赤面しながら『さっさと寝ろ』とか言ってかおを背け____
「あ"?」
_____たりしなかった。
至近距離からえらくドスのきいた低い声が聞こえ、思わず顔をあげてDIOの表情を伺うと、
ちょっと不機嫌な顔をしていた。いや、ちょっとどころかかなりご立腹の様子だ。
「貴様……また私を放置するのか?あれほど『でぃおじゃなきゃだめ』だの『でぃおだいすき』だの、私を散々期待させるようなことを言っておきながら」
「ちょっと待ちな、おれはそんなこと一言も言ってn」
「ふ…記憶にないときたか………だが承太郎、このDIOは常人を遥かに凌駕する聴力を備えたこの両耳でしっかりと聞いたのだ、確かにな」
馬鹿な、おれがいつそんな正気とは思えねえような台詞を口走った……
…
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