■ 出会いたくなんてなかった

あの日から二人で昼食をとるようになった。
僕としてはあまりよろしくない展開だったけれど、とても嬉しそうに昼食をとる彼女に「親しくない人とは話したくないから違う場所で食べてくれない?」なんて言えるわけもなく、かと言って僕が移動しようにも宛がない。
食堂や教室は人が沢山いて居心地が悪いし、だからと言って誰もいないトイレの個室で食べると言うのは流石に衛生上よろしくない。あれこれ考えた結果、やはり屋上で食べるのが一番マシという結論に至った。
彼女は彼女で誰かと食べるという行為が嬉しくて仕方ないのか、特にこれといった会話もないのに嬉しそうにお弁当を食べている。そんな彼女を見て変わった子だなと思うのはきっと僕だけではない筈だ。

彼女について分かったことは名前と学年(僕と同じ二年生だった)だけで、他のことについては全く分からなかったし、別に聞こうとも思わなかった。それは彼女も一緒なのか、別に僕のことについて何か聞いてくるわけでもなく いい天気ですね とか当たり障りのない会話をたまにしてくるだけで。
だからこそ人と関わるのが嫌いな僕でも、彼女と昼食をとることが我慢出来ているのかもしれない。きっと彼女が煩くてずけずけと人の心に入ってくるような奴だったら、わざわざノックに応じて屋上の鍵を開けたりしないだろう。そういう面では助かったと言えるのかもしれない。



「今日はいつもより冷えますね。」

鼻先を紅く染めた彼女は、そう言うと何度も白い息を吐いて寒そうに肩を震わせる。

「今日は今年一番の冷え込みらしいからね」

事前にその情報を得ていた僕はダッフルコートにマフラー、手袋という完全装備で昼食をとっていた。
隣で震える彼女は制服にセーター、ブレザーという薄い防寒具を身につけているだけ。
スカートの下から覗く細い脚は本当に寒そうで、男に生まれてよかったと心から思えた。

「チハヤ君は温かそうですね…私も着て来ればよかったです。」

「これでも寒いよ。君はもっと寒そうだけど」

「…凍えそうですよ」

セーターの袖を限界まで伸ばして彼女は答える。

ならここで食べなくてもいいんじゃないの?

喉まででかかったその言葉を飲み込んで、そうだろうねと返した。

パックのオレンジジュースを飲み干して、いそいそと弁当を片付ける。すると僕に気付いた彼女も弁当を片付け始める。

いつも疑問だった。
なぜ彼女はもう食べ終えているというのに、この寒い中僕が食べ終えるのを待っているのだろうか。
聞いてみようかとも思ったけれど、彼女に何かを聞くのが嫌だった。まるで自分が彼女に関心を持っているみたいで、なんとなく面白くない。

弁当を片付け終え、それじゃあと短く言えば彼女はありがとうございました と礼を言う。
何に対しての礼なのか分からないけれど、彼女は毎回そう言った。
先に彼女を屋上から出して、彼女の姿が見えなくなってから屋上を出る。そしてヘアピンでまた鍵をかけて何事もなかったかのようにその場から離れた。

毎度思うことだけれど、この学校の鍵はあのままでいいのだろうか。ヘアピンで開いてしまうことは教師の耳にも入っているだろうに。
まぁ、自分には都合がいいのだが。


宛もなくブラブラと歩く。
特に行きたい場所も、時間を潰す手段も思いつかなかった。
図書室に行こうかとも思ったけれど料理関係の本なんて腐るほど読んだし、読みたい本があるわけでもないと思い直してやめた。

彼女は…ヒカリは何をしているんだろうか。

ふとそんな事が頭を過った。
友達がいないと寂しそうに言っていた彼女はどこで時間を潰しているのだろうか。少なくとも図書室にはいないようだけれど、他に時間を潰す場所なんてあっただろうか。
教室で一人、仲の良いクラスの奴等を見ているのだろうか。

「…馬鹿らしい。」

どうして僕が彼女の心配なんてしているんだ、馬鹿らしい。
どうせ彼女のことだ、教室でもにこにこしているんだろう。
あぁくだらない。

無性に苛々して、手に持っていたマフラーを弄ぶ。
そもそも彼女が屋上に来さえしなければ、なんて理不尽な考えが頭の中でぐるぐると渦を巻いて、何故同情なんてしたのかと自分自身に腹がたつ。

出会わなければよかった。

彼女に会ってから、その想いは全く変わらないままだった。



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