■ 同情から始まる僕ら

学校はつまらないと思う。

授業を受け、友人とくだらないことを話すただそれだけの場。
人と関わることが嫌いな僕にとってそれはお世辞にも楽しいとは言えない。
何人かの女子から告白を受けたこともあるけれど、全て適当に流して終わった。
そもそも、名前すら知らない相手に告白されたって、君だれ?としか言い様がないのだ。
その度にやれフラれただの酷い奴だのと言われてきたけれど、勝手に僕に理想を抱いてその理想が壊されると そんな人だとは思わなかった だなんて虫が良すぎるんじゃないのと言うのが率直な感想。
僕のことを知りもしない癖に勝手な理想を抱いて、それが壊れるとまるで僕が悪いかのように責め立てる。
だから嫌なんだ、人と関わるのは。



4限目が終わって、いつも通りの昼食の時間。誰かに一緒に食べようと誘われるのが嫌で足早に教室から抜け出した。
右手にはお弁当、左手には事前に自販機で購入した果汁100%のパックのオレンジジュースを持ち、いつも通りの場所へと足を運ぶ。
去年のこの時期、わざわざ寒い外に出て昼食をとる奴なんていないだろうと目星をつけたそこは、冬の間の昼食場所となっていた。

最上階までの階段を上り、慣れた手付きで屋上へ続くドアの鍵をヘアピンで開ける。カチリと手応えが返ってきたのを確かめてからノブをひねった。
一歩外に出た途端、身を切るような冷たい風が体を包む。たまに自分と同じようにこっそりと屋上に入り込むふとどきな輩がいるのだが、やはりこの寒さのせいか自分以外は誰もいない。
はぁ、と息を吐くと白く濁った。

あまり長居すると凍えてしまいそうだし、食べ終えたら図書室なりなんなりで時間を潰そう。

そんなことを考えながら屋上の鍵を閉めようと振り替えると、ドアの前に一人、お弁当を片手に持った女の子が立っていた。

「…こんな寒い日に屋上で昼食?」

「…そっくりそのまま返します。」

そう言って少し笑った彼女は見たこともない子だった。
ただ単に気にしてなかっただけで見たことはあるのかもしれなかったけれど、印象に残っていないと言うことは今まで関わりがなかったということだ。
散々ぐちぐち言ってきた女子達でなくてよかった、と心から思う。

「君、ひとり?他には誰もいないの?」

軽い気持ちでそう聞くと、彼女は少し表情を曇らせて「他に誰もいないからここに来たんですよ」と笑った。

少しだけその返答に驚いた。
基本的にこの学校は皆仲が良くて(自分は例外であるが)昼食は大きなグループで食べているし、学校行事もクラスでの取り組みが多いのでクラス内での友人が作りやすい、と聞いたことがある。虐めだとかそういった話を聞いたこともなく、平和な学校だ。
なら彼女は僕のような性格なのかと思ったがそれも違うようで、現に先程の彼女は寂しそうだった。

「…あの、お邪魔してすみませんでした。私、場所変えますね」

「あ…」

にこりとぎこちない笑みを浮かべて回れ右をした彼女の腕を掴む。考えるよりも先に体が動くとはこういうことを言うのだろう。彼女も驚いていたけれど、腕を掴んだ自分はきっとその倍は驚いていたと思う。

「…ここで食べていけば?別に、ひとり増えたくらいなら気にならないし。」

「え、でも。」

「ほら、早く扉閉めないとバレる。」

「あ、ご、ごめんなさい。」

彼女が慌てて屋上に出たのを確認してから扉を閉め、鍵をかけた。そして後悔。

自分は何をしているんだ。人と関わるのが嫌でわざわざ此処まで来たというのに、これじゃあ何の意味もない。
けれど

ちらりと横目で彼女を見る。
彼女は落ち着かないのか、時折こちらを見てはまた視線をさ迷わせていた。
その姿にため息をついて、扉の横に座り込む。

…同情してしまったのだ、彼女に。
なんて自分らしくないことを。

そうは思ったが後の祭り。どうせもう会うことも無いだろうと開き直り、早く食べ終えて図書室に行こうとお弁当を開いた。

「すごいお弁当…!」

「えっ…」

いつの間に隣に来ていたのか、彼女は僕の弁当を見つめてすごいすごいと楽しそうにはしゃいでいる。
てっきり二人バラバラの場所で食べると思っていたけど、どうやらそうではないらしい。

…それもそうか。自分から昼食に誘ったのと同じなのだから。

「愛がこもってますね」

「…作ったのは僕だけどね。」

そう言うと彼女は あぁすみません と何に対してなのかよく分からない謝罪をしてから、あの、と話をふってきた。
なに、と聞き返すと少し間を置いてから

「…お名前、聞いてもいいですか」

と、寒さのせいか紅く染まった頬をして尋ねてきた。
そう聞かれた時、あぁ、やっぱり面倒なことになったなと思わずにはいられなかったけれど。

「…チハヤ。」

何故か今にも泣いてしまいそうな彼女の目を見て、そう答えずにはいられなかった。

またやってしまったと思うよりも先に彼女が嬉しそうに笑って チハヤ と僕の名前を復唱する。
その嬉しそうな表情が、少しだけ胸に刺さって。

「あ、私はヒカリ、です。あの、」

よろしくお願いします。

そう言って差し出された手に、内心ヘドが出そうになったけれど

「よろしく」

自分から手を重ねたのは、彼女に同情したから。ただそれだけの理由だったと思う。


その日二人で食べたお弁当は、今まで食べたお弁当の中で一番まずかった。


[ prev / next ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -