後悔先に立たず



 ずっとずっと、かれこれ一時間は上司であるCHU-RINの寝顔を見続けている自分はこの人に心底惚れてるんだなと三水は改めて思った。
 3人ぐらいが座れるであろう黒い革張りのソファーにこれでもかと体を伸ばして寝ている彼の真横に屈み、膝に添えた両手に顎をのせ、規則正しく脈打つ首筋とか微かに震える睫毛とか酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す唇とか、一体何度見回した事だろう。
 流石に長時間屈み続けていれば当たり前のように足が痺れてくるわけだが、滅多に人前で寝ようとしない、況してや熟睡しているCHU-RINだからこそ貴重過ぎる光景から目を片時も離したくなどなかった。と言うのは九割型占めてるが残り一割は痺れすぎて足が動かないと言うのもある。
 カチコチと鳴る時計の秒針の音と僅かな隙間から出入りする空気の音だけが響く空間。まるで世界に自分とCHU-RINしか存在しないかのような静けさのせいで三水の彷徨っていた目線は一点のみを見始めた。
 その瞬間どくんと自分の心臓が一気に高鳴る。屈む体制から両膝を固いコンクリートに着けると、少しだけCHU-RINとの距離が近付き、さっきよりかは高い位置で寝顔を見ることができるようになった。
 いきなり足を動かしたことにより何とも言えないビリビリとした感覚が足の裏から足首まで走り抜け、独特な痛みに堪えるべく軽く奥歯を噛み締めた。
 大きく脈打つ胸に右手を当て深呼吸をするとゆるゆると胸にあった右手を自分の口許まで持っていき、薄く色付いた下唇をなぞるように人差し指を滑らせた。
 三水は何かを祈るように悩ましげに瞼を伏せ、唇に指を宛てた状態で小さく息を吐けばじんわりと熱を帯びる指。瞼を開けその指でCHU-RINの下唇に優しく触れた。
 ふわりとした感触に一瞬目眩がした三水だが、そのままCHU-RINが起きない程度にふにふにと指を動かす。
 三水はうっとりと目を細め、これまで誰も見たことがないであろう綺麗な笑みを作った。
 その時小さく身動ぎしたCHU-RINに驚いた三水は触れていた指を離す直前。

「…    。」

 CHU-RINが囁いた声は三水にとってあまりに切なくてそして甘く、この上無く残酷に聞こえたに違いない。今まであった三水の笑みは消え、心臓を握り潰されたような感覚に息が詰まった。
 重過ぎる空間に堪えきれなかった三水は静かに部屋を出ると、そのままドアに凭れ掛かりずるずるとその場に踞る。


「…好きになんて、なるんじゃなかった」





prev|Next

 BookMark

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -