一人ぼっちの黒猫



地獄のような人生を過ごしてきた。

悪夢のような光景を見てきた。

心を抉るような言葉を聞いてきた。

世の中は残酷だと思う。

それでも









物心ついた頃から俺は父さんから虐待を受けていた。青痣が顔や体中にあり、手の指1本動かすだけで肩の付け根まで激痛が走るほど酷いものだった。唯一心が休まる学校にさえも鈍く重い痛みのせいで行けない日が何日も続き、家に居ると母さんが動けない俺を庇う。俺は一日中母さんの静止の声と痛みに耐える呻き声を聞きながら、人間でも何でもない、ただ人の形をしているだけの化け物を母さんの腕の中から見ることしかできなかった。

寝ていても魘され、起きていても地獄だった生活に更に追い打ちを掛ける出来事が起きてしまう。

母さんが父さんを刺殺してしまったのだ。


その光景を傍観しながら、父さんが殺されたことに驚きより先に安堵してしまったのは当時の俺としては仕方がないことだと思う。次に込み上げてきた感情は、俺を守ってくれた母さんの白い手が父さんの血で真っ赤に染まってしまった悲しさだった。

震える母さんの手を両手で包もうとするが、その手は俺の首に掛けられ俺は頭が真っ白になってしまった。親指で喉仏を押し潰され痛みと苦しさが押し寄せて来る。俺は脳に酸素が廻り切らず力が抜け、母さんと一緒に床に倒れた。その衝撃で母さんの手の力が弱まった瞬間、本能的に俺は酸素を一気に肺に送り込んだが、母さんは馬乗りになっている体制を利用して今度は体重を掛けて俺の首を絞めてきた。
視界が狭まり意識が朦朧とする中、俺が見たのは母さんの金色の目から溢れ出る綺麗な涙。その表情はなんとも言えない悲しそうで、とても綺麗だった。



意識が戻った時、耳鳴りが酷く心臓が破裂するのではないかというぐらい鼓動を打ち、その脈で俺はまだ生きているのだと荒い息で実感する。
自分の横を見ると、そこには動かなくなった母さんがいた。



「…ごめんなさい」




そう小さく呟いた俺は自分でも驚くほど冷静だった。
力が入らない脚を無理矢理立たせ、壁伝いにその部屋から玄関へと歩いていく。まだ頭がはっきりとしていないからか、それとも感覚がおかしくなったのかは分からないが自分の家である筈なのに何処か知らない家の中を歩いている気がした。
それは家を出ても同じだった。今まで歩いてきた道や建物が初めて見るもののように感じられた。






俺は一人だ。
















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