分岐点だと思う



三人が歩いているのは、朽ち果てた村だった。
人の気配は愚か、家畜やその他の生き物さえしない。
村全体が分厚い雲で覆われ、うっすらと霧がかかっていた。
戸が倒れていたり傾いている家は、少し強い風でも簡単に音を立てる。
まるでこの地自身が、侵入者を追い返すために軋んだ音を立てているように、あちこちから不気味音が聞こえてきた。

「本当に、こんなところに人がいるんですかねえ」

誰に言う事もなく、鬼鮫がつぶやく。

先日一尾を狩りに行った時に再開したサソリの部下が、里の中で気になる情報を掴んだらしい。
なんでも、最近各国の忍が不自然な死を遂げていることがわかったとか。
昔からそういった死体が見つかることはあったのだが、それにしては妙な遺体が多いのだ。
砂と木ノ葉が協力して検死を進めた結果、強い幻術か拷問を受けている者が多数いた。
全て同一犯だと云うが、それ以降わかったこともなく、その間に死体は増えるばかり。
里の情報が漏れるわけでもないが、放っておいて後々面倒事を起こされては困る。
双子のことは、五影の中では暗黙の問題になっているようだ。

それに興味を示したリーダーが数少ない情報を掻き集めた結果、十年前に木ノ葉を抜けた双子の忍がいる事がわかった。
さらに調べを進めると、双子が里を抜けた日の夜に集落が一つ滅びたらしい。
何か関連性があるかもしれないから様子を見て来い、そしてもし双子がいたら攫って来いと、三人に任務を言い渡したのが半日前。
曖昧な情報を元に捜索に来たのだが、本当に村には自分達以外は誰もいないようだ。
周辺に気を配りながらしばらく歩き続けても、やはり何の進展もない。
ここは、諦めて別の任務に就いたほうが遥かに効率がいいだろう。

「今回ノ情報ハデマカ」「元々、信憑性が少ない情報だったからね。対象もいないみたいだし、帰っちゃう?」

ゼツの言葉で、三人の意見が帰路に着く方へまとまりかけていた。
イタチは立ち止まって周囲を見回すが、同じような景色が続くだけだ。

「…そうだな」

何も無い以上、もうここに居ても時間の無駄だと判断する。

「では、帰りましょうか」

「      」

三人は村を出るために道を引き返そうとした時、ふと声が聞こえて動きを止めた。
聞き間違いではない、明らかに誰かの囁き声が聞こえたのだ。
息を潜めて注意深く様子を伺っていると、今度は背後で足音がした。
それも、複数いるようだ。
いきなり沸いて出たような生き物の気配に緊張する。

「何ダ?」「誰かいるみたいだね」

鬼鮫は大刀鮫肌に手をかけ、音のした方へにじり寄って行く。
音がしたと思われる古びた家のドアを蹴り倒し中に入り込むが、姿は無かった。
電気など通っていないはずなのに、奥の部屋に明かりが付いている。
ドアは半開きでゆらゆら揺れて、まるで奥へ誘い込んでいるようだった。

「    」

部屋からは、微かに一人分の笑い声が聞こえてきた。
この村の中に消えそうな程小さな声のはずなのに、耳元で言われたようにはっきりと聞こえた。
後から入って来たイタチとゼツも、その声を聞いて微かに表情を固くする。

「変ナ場所ダナ」「うん。なんか寒いし」

室内に妙な違和感を感じつつも、一歩ずつドアに近付いて行く。
イタチがドアに手をかけると、隙間から見えていた灯籠の明かりがふと消えた。
そして、奥に走って行く足音と遠くなる笑い声。
イタチが目を凝らして部屋の奥を見つめるが、色が落ちて元の絵がわからなくなっている掛け軸があるだけだった。
三人が部屋に入ると、何の前触れもなくドアが閉まる。
鬼鮫が取っ手を回すが、びくともしなかった。
見たところ、部屋の出入口は一つだけだ。
完全に閉じ込められた。

「どうやら、ハメられたようですね」

「油断シタナ」「僕らはいいけど、イタチと鬼鮫は家を破壊しないと出られないね」

ゼツが半分本気で軽口を叩く。
すると、その発言に抵抗するように部屋が唸った。
蝿が飛び回るような嫌な音が、強弱を付けて三人の鼓膜を震わす。
頭を押さえたくなるほどの高音が一気に大きくなり、次の瞬間目の前が真っ白になった。
反射的に顔を腕で覆い、視界いっぱいの光から眼球を守る。
一歩後ろに跳び下がり戦闘に備えた時には、音も光も消えていた。
代わりに現れたのは、姿形が瓜二つの二人の少女。
腰の下まである長い緑の黒髪で顔が隠れているため、表情はわからない。
初めからそこに居たかのように、静かに部屋の真ん中に背中合わせで正座している。
片方、イタチの方を見ている少女は黒い着物に赤い帯。
反対を見ている少女は、紺の着物に黄色の帯を締めている。
身長も同じくらいで、双子というよりクローンのような印象を受ける。
いや、そもそも彼女達は生き物なのか。
現れた時から身動きしないところを見ると、人形のようにも思える。

「何なんでしょうねえ、この村は…」

立て続けに奇妙なことが起こるが、攻撃は一切してこない。
まるで自分達が遊ばれているような感覚に、鬼鮫の呆れたような不思議そうなつぶやきが漏れた。
現れただけで何もしてこない彼女達に、イタチが距離を詰める。
その隣に鬼鮫が立ち、離れたところからゼツが様子を伺った。
イタチが屈んで黒い着物の女に手を伸ばすと、その手を掴まれた。
今、触れようとした女の手は両膝の上にある。
掴まれた手を辿って視線を移すと、女の背後に紺の着物の女が立って、イタチの手を掴んでいた。

「おや、生き物だったんですね」

黒い着物の女が立ち上がり、背後の女と並んだ。
女がイタチの手を離す。

「貴女方が、各国の忍を殺し回っている双子の殺人鬼ですか?」

鬼鮫が問い掛けるが、目の前の二人から反応は無い。

「やれやれ…まぁいいでしょう。ウチのリーダーが貴女達の事を気に掛けていましてね。ちょっとそこまで一緒に来てもらいますよ」

鬼鮫が一歩踏み出すと、黒い着物の少女が揺れた。
誰かが止める間もなく、一瞬で消えてしまった。
特殊な時空間忍術でも使ったのだろう。
紺の着物の少女は部屋の壁へと歩いて行き、傷害など無いかのようにそのまま通り抜けた。

「トビト同ジ能力カ」「みたいだね。二人とも、部屋のドアが開いてるよ」

ゼツの言う通り、さっきまで動かなかったドアが半開きになっていた。
鬼鮫がどうしようか迷っていると、イタチが何の抵抗もなく部屋から出て行った。
鬼鮫とゼツも、一瞬視線を交わして着いて行った。
部屋を出てすぐ、家の奥でぼんやり光っている紺の着物の少女を見つけた。
彼女はこちらを向いて、手招きしている。

「着いて来い、ということですかね」

「…行くぞ」

三人は少女を追って歩き出した。











3月27日、執筆。



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